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剣道七級の俺が、異世界で鋼鉄の「機巧武者」を駆り、帝国の蒸気演算を粉砕するまで  作者: 角乃とうふ
第四章 不夜の海市、偽りの仮面 

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第十五陣 夕闇に滲み出る吐露

 機械工房に併設された酒場「海燕亭」。夕暮れ時、赤い提灯が軒先にぶら下がる運河を臨むテラス席で、尋人と白龍(ばいろん)は黒ずんだ円形のテーブルを挟んで座っていた。

 目の前で、白龍は麦酒(エール)を喉を鳴らして煽っている。その飲みっぷりは、線の細い美青年の外見からは想像もできないほど荒っぽく、どこか自棄(やけ)気味だった。見た目は自分と同い年くらいに見えるが、大秦国の飲酒年齢は何歳からなんだろうか。ふと、そんな素朴な疑問が尋人の頭をよぎる。


「貴様は飲まないのか?」

「いや、まだ飲める歳じゃないんで。お茶で結構」

「そうか……。海市の蒸し暑さには、この地酒が良く合うんだがな」


 白龍は少し残念そうに言うと、静かに陶製のジョッキを置いた。

 不意に、運河から流れる夕闇の風が彼の栗色の長髪を揺らす。汗ばんだ首筋から立ち上る熱気とともに、鼻を突く酒の匂いに混じって、わずかに沈香(じんこう)のような神秘的な香りが漂った。


(……お香? それにしても……)


 磁器人形(ビスクドール)のように整った顔立ちと白い肌。先の戦場で見せた苛烈なまでの闘志とまるで違う、触れれば壊れてしまいそうな繊細な印象に尋人は戸惑った。


「……私の顔に何かついているか?」


 どこか沈んだような乾いた声だった。その瞳の奥には、隠しきれない疲労と深い憂いが沈んでいる。尋人の目に映るその姿は、かつて一戦を交えた荒武者とは別人のように見えた。


 尋人は冷たいお茶を口にし、思い切って率直な疑問を投げかけた。


「……俺、この世界に来て間も無くて、世界情勢っての? あんまり分かってないんだけど、なんで、大秦国は皇國に攻めて来てんの?」

「それは……。口にするのも忌々しいが、大秦国は事実上、帝国の傀儡(かいらい)国家だからだ。主要な貿易経路を押さえられ、命令に背けば経済封鎖と過酷な軍事制裁が待っている。従わねば、千万の民が飢えと闇に沈むことになるのだ」


 白龍は震える手で、空のジョッキを強く握りしめた。


「瑛華(えいか)様は、あえて暴君を演じておられる。帝国に従順なフリをし、国民の不満をすべて御身に引き受けながら、大秦国の行く末を模索されている。瑛華様のお役に立てるなら、私は汚れた仕事でも喜んで引き受ける」


 吐き捨てるようなその声には、思い通りにならない歯がゆさが痛いほど込められていた。先の皇都襲撃の裏に、そんな苦渋が秘められていたのかと尋人は驚く。


「……どうにかお互い戦わずに済む方法がないもんかな」

「戦士とは思えぬ甘い台詞だな……」


 白龍は、束ねた髪を指で無造作に触り、呆れたように微笑んだ。

 その瞬間、一瞬だけ柔らかい表情がこぼれた。


「ここは夢と現(うつつ)が溶けあう街。絵空事を聞くのも悪くないか……。とはいえ、霊子結晶は譲れんがな」


 運河を流れる蒸気船の汽笛が、遠くで物悲しく響く。

 敵同士であるはずの彼らは、いつの間にか共通の強大な敵を見据えながら、静かに器(うつわ)を傾けていた。

尋人と白龍、それぞれの想いが交錯する夜が更けていきます。

次回、静から動へと物語が動き出します。


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※明日からは、毎日1回4時20分に更新します。

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