表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激昂のイレギュラー  作者: 亜空獅堂
Phase8:白亜の閃光――虚構
72/74

Phase8-6:白亜の閃光――虚構

 少し前。ホワイトハウスから熱戦が放たれた時刻。

 図書館から出て、付近の住宅街へ入ったアングは、ジョイの先導に連れられるまま歩みを進めていた。

 そして、目的地のアパートへ入ろうとした際にそれは生じた。


 空に浮かぶホワイトハウスが、未知のエネルギーを充填するけたたましい音。

 発射による閃光。大気を引き裂く振動。

 ビル街からは離れていたため、いったいどこに向けられて放たれたのかは分からない。

 しかし確かに、大規模な破壊の音がした。


 多くの死を予感したアングは、ただ呆然と口を開けていた。

「今のは……何だ……?」

 入口の階段を上りかけていたジョイも後ろを向き、不思議そうに首を傾げた。

「あんなことをするって話聞いてないけど……」


 アングは少しだけ安堵した。

 もし彼がこの事態の黙認に絡んでいるとすれば、今後どう接したらいいか分かったものではない。

 ともかく、いま起きたことは歴史の教科書に載るような事態だ。自分の身近でも何らかの余波がないかと、慌ててカフを確認。



 画面を見た瞬間、心臓が跳ねた。

 メーナからの不在着信履歴があったからだ。

 気づけなかったのは、図書館へ入る際にマナーモードに切り替え、そのままにしてしまっていたからだろう。

 時間は、ホワイトハウスが攻撃を開始する五分ほど前。


 まさか……と最悪の想像が広がる。

 メーナがいるらしい病院とは方角が違うように見えたが、仮に早い段階で退院をしていて、あの砲撃の範囲内にいたとしたら……。


 危惧の最中さなか、ホログラム上に通知が入る。

 チャットアプリからのもので、送られてきたメッセージは短かった。


『無事です』

 メーナからだった。


 アングは口が歯痒くなる。

 何かにつけて見透かされている気がしてしまうが、今はとにかく、生きていると分かったのならばそれでいい。

 通知を遡ってみると、彼女から、『会って話したいです。今どこにいますか?』というメッセージも来ていた。

 どのみち返答はしていなかっただろう。アングは、情報の検索に戻ろうとする。


 先にニュースサイトを巡回していたジョイから、驚きが漏れる。

「ナイゲール社のビルが……!?」

 ただそれだけで、アングは何が塵となったのかを理解した。


 つい昨日、自分とカザミ、そしてメーナが滞在した場所が、失くなったのか。

 そしてこのような凶行を下したのは、間違いなくあの女性であろう。

 アーマード同士の戦いでも彼女に膝をつかされた。再び彼女の謀略が立ちはだかる。


 あの砲撃を受けて、まだ生きている者はいるのか。

 今から自分が向かったところで、何の助けにもならない。

 そうは思いつつも、足が勝手に動く。

 彼女の支配と対峙する者として、向かわなければならないと。



「君たちが行く必要はない」

 突如、背後から低い声で呼び止められる。ジョイの声ではない。

 上がろうとしていた階段の頂点から、一人の男がこちらを見下ろしていた。

 不気味な笑顔を模した、白黒の仮面を被る男。


 見覚えがあった。

 あれは、アングがイレギュラーとして覚醒する直前。

 当時は全くもって信用していなかったカザミに追いかけられ、逃げ込んだ先の関係者通路に彼はいた。

 把握している情報は、彼が警察関係者の一人であるということ。



 そして何より、レッド・キューブを、見られているということだ。

 あらゆるアーマードがワシントンに現れた今、あのようなキューブ型の物体を、単なる偶然だと捉えられるものか。


 ジョイが、階段の上にいる彼へ向けて、バッチリな笑顔と共に腕を広げた。

 身の毛もよだつような発言をする。

「ちょっと妬けるけど、今日アングに会いたいって言ったのは、このゼオン隊長だよ!」





 メーナが負傷したことにより、今日の映画の撮影は中止。

 よって見舞いに来たマックスも家へ帰るつもりだったのだが、彼の本能が、病院入口のロビーで立ち止まらせる。


 受付カウンターにいる女性があまりにも美しい顔立ちであったがために、放っておけないと思ったからだ。

 決して、ビル街の方から凄まじい爆音が聞こえたからというわけではない。

 一旦ロビーの長椅子に座り、彼女の様子を見守っていたが、暇を持て余しているような瞬間は全くなかった。


 なので、強硬手段に出る。

 客や患者と話していない合間を狙い、呼ばれてもいないのにマックスはカウンターの前へと歩み出た。

「他の方よりも一際美しいお姉さん。今夜、一緒に街へ繰り出しませんか」

 パソコンに何かを入力していた真剣な面構えの彼女が、顔を上げてこちらを向く。


 引きつった笑みを浮かべた。

「先に整理券を取っていただけないでしょうか」

 マックスはカウンターに肘をつき、横向きに身体を乗り出す。

「照れないでよ……。オレっちが言ってるのは、健全な遊びのことですよ」

 囁くように呼びかけたが、手応えがない。視線がパソコンの画面へと戻りかけている。


 マックスは「いいな」と思った女性によくナンパをするも、基本的に不発で終わる。

 だが諦めなければ願いは叶う。打率一割未満ということはつまり、未経験というわけではないのだ。


 しかも現在の自分は、強烈な切り札を手に入れている。

「実は自分、今度ある映画に出演することになっててぇ。それがなんと――」

 いったい誰と共演しているのか。それを聞けば、絶対に食いついてくる。


 この自信に横槍が入った。

『フィアーナさんで間違いありませんか?』

 いきなり後方の、少し遠い距離から野太い声が飛んできた。

 フィアーナと呼ばれた受付の女性はそちらを見て、マックスも振り返る。


 ガード・アーマードの着用者が二人立っていた。つまりは警察官だ。

 困り眉を浮かべて、フィアーナが軽く答える。

「そうですが……」

 返答を聞いた警察官二人は、互いに顔を見合わせて頷いた。


 すると同じタイミングで、金属による早い足音が響く。

 マックスが横を見れば、同じようにアーマードを着用した人物が、慌ただしく奥の廊下へと走っていくのを目撃した。

 あの急ぎようは、トイレだろうか。

 このような軽い考えを持てたのも今のうちだった。



 チャキッ。

 警察官二人が、フィアーナにサブマシンガンを突きつけたのだ。


「ちょちょちょちょーい! 待ってよー!」

 マックスは両手をぶんぶんと振り、横にステップするようなかたちで各陣営の間に割り込んだ。

「どういうつもりか知らないけど、こーんなに美しい顔に穴あけるなんて、許せねえはそれは」

「危ないぞ、その女はイレギュラーだ!!」

「えっ」

 急にマックスの理念が揺らぐ。

 どういうことかと後ろの彼女を見た。


 警察に隠すような膝下の位置で、何かを触っている。

 ジャキッ……という音が鳴った。

 マックスの視点からでは、彼女の手元でかすかに黒光りしている金属の塊が見える。

 隠し持っていた拳銃のロックを、解除したのか。


 だが、カウンターの下で何かをしているというのは、後方のアーマード隊員も爪先立ちをして怪しんでいた。

 前方の仲間の肩にポンと手を置く。

『もういい、まとめて殺ろう』

 一瞬、まとめてというのが何を指しているのか分からなかった。


 銃口が自分にも向いていることに気づき、喉からアヒルのような音が鳴る。

 呆気ない人生だったという諦めが過った、その時。



 ビュンッ!!

 一番近いマシンガンの銃身に、病院入口の方から細く硬い線が巻き付いた。

 張力により、銃を強制的に床へ振るい落される。

 飛んできた方へ、警察二人が勢いよく顔を向けた。


 狐の仮面を被った謎の人物が、猛スピードで走ってきていた。

 大きめの警察用ジャケットを羽織っているが、仲間ではないのか。腰に付けている装置からワイヤーは伸びている。

 しかしもう一人のアーマードは、まだ銃を所持できている。

 迫りくる対象に向けて発砲した。


 それを女性と思われる狐面は、スライディングで銃弾の雨をくぐり抜けて回避。

 勢いを緩めず、そのまま流れるように足の爪先での直接攻撃へと移行する。

 足元をすくわれた彼は、宙に浮き上がった。


 彼女は容赦なく追い打ちをかける。

 立ち上がる動作とほぼ同時に右脚を高く蹴り上げた。

 軸足となる左脚から真っ直ぐ、美しい『I字』の線を描いた。

 爪先を相手の脇下に引っ掛けてから、壁へ押し付ける。


 それだけでは終わらない。

 ズボォッ!!

 突如、彼女のブーツの爪先から、ナイフのような刃物が飛び出た。

『ぐああぁ!?』

 それはアーマードの装甲をも容易く打ち破り、出血を与える。


 ただ、意識がそちらに集中している間のことだ。

 もう一人の警察官が、振り落されたサブマシンガンを拾おうと手を伸ばす。


「危ねえ!」

 女性の味方をしたいので、マックスは思わずそう叫んでいた。

 この一声いっせいのおかげで、狐面の彼女も危機に気づいた。

 爪先のナイフを引き抜き、そこからはなんという身のこなしか。

 全身をプロペラのように横回転させ、空中で舞った。


 それは、警察の一連の行動よりも速く完了する。

 回転で勢いを増した近接攻撃が、アーマードの肩を深く抉った。

『バカ……な……!』

 両者ともにダウン。傷口を押さえて床にうずくまった。

 ただ彼らも、一端の警察官だ。すぐに根性で起き上がってくることだろう。


 マックスは、ここでカッコいいところを見せればデートに来てくれるだろうと思い、受付の女性に呼びかけようとする。

 だがいつの間にか、警察に狙われていた彼女は姿をくらましていた。


 着地の反動で膝をついていた狐面の彼女が、立ち上がってすぐにマックスの目の前まで迫りくる。

 仮面の黒や橙の線が視界いっぱいに広がる。

「もう一人は!?」

 誰のことを言っているのかとしばし悩んだが、先ほどマックスは目撃していた。

 病院の奥の方へと向かっていく、やけに急いでいたガード・アーマードの存在をだ。

「えー……。な、なんか、エレベーターのある方に向かってった――行きましたけど」


 答えてやると、すぐに彼女はチッ、と舌打ちをする。

 彼女は、平然と作業を続けている別の受付の女性に対して大声で呼びかけた。

「ロビーにいる人たちを退避させてください!! メーナさんの所にはあたしが行きます!!」


 何故ここでメーナの名が出てきたのか。

 聞いてみようかと口を開きかけた間に彼女はダッシュで動き出した。先ほどのアーマード同様、病院の奥へと向かっていく。

 あの仮面や、ダボダボな警察のジャケットは、おそらく正体を隠すための配慮なのだろう。

 しかし、あれで隠せているつもりなのか。

 走る振動のたびにジャケットの裾が捲れ上がり、ジーンズと引き締まったヒップラインが丸見えである。


 そしてマックスは、女性の尻の形を記憶する特殊技能を持つ。

 彼女の正体を完璧に把握した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ