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激昂のイレギュラー  作者: 亜空獅堂
Phase5:碧く滲む、置き去りの影
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Phase5-6:碧く滲む、置き去りの影

 最上階へと上がったゼオンは、ハルからの連絡を脳髄で聞きながら、こめかみに指を当てていた。

「分かった。二人はそのまま下で待機しろ」

 脳波で通話を切り、エレベーターを降りた場所にて集結させていたアーマード部隊に呼びかける。

「爆弾はハッタリではなかった。我々の仲間が、名誉の死を遂げた」


 凄まじい音と建物の揺れから、全員がその事実を予想していた。

 爆心地となった警備員に至っては、足以外は何も残らなかったらしい。

「あの蛮行を犯した罪人は、既にこの最上階へ到達している。なんとしてでも始末し、彼らの無念を晴らせ」

 六名の人員は、ほとんどが無言で受け入れたり、静かに頷いている。


 しかしここで、先頭に立つ一人が、罰が悪そうにそっと手を挙げた。

『あの、僕は死んだ二人と話したことがありません』

「それがどうした?」

 すると、隣にいたもう一人も肩を揺らめかせ、彼らはアーマード越しに顔を見合わせた。またゼオンの方を向く。

『もう、カナ・ブラウンを逃してしまってもよいのではないかと私たちは思っています』


 こういった意見が出てくることは予想していた。

 彼らの言い分を内心で咀嚼しつつ、ゼオンは無言で顎を上げる。

 たったこれだけの動作で、彼らは狼狽え始めた。

『そ、そのほうが、余計な被害も受けないで済むんじゃないかぁ……と思って』

「君たちの提案を鵜呑みにできない事情はある」

 続けて、ゼオンが冷ややかに伝える。

「パトカーの爆発が予め仕掛けられていたものだとしたら、この警察内に内通者がいることも検討しなければならなくなるからだ。つまり君たちが疑われる」

『僕らはただ、合理的に考えようと思って』


 ゼオンは上下関係というものを気にしない。ただ、ここは首を横に振る。

 彼らはこの動作を、単なる否定と受け取ったようだ。

『ダメ、ですか?』

「失望したということだ」


 すると、三叉路の曲がり側から、予め配置されていた警察官が早足で近づいてきた。

『隔離室の前に奴らが来ました』

 なるべく声を張らずの報告は、しかし場の空気を一気に重たくさせた。


 ゼオンは、片手を挙げるハンドサインで、場の全員に指示。

 隊員たちが、身を低くしての小走りで、隔離室へと続く道の壁沿いへ二列で並ぶ。

 左へ曲がれば部屋の入口が見えるというコーナーで静止し、先頭の人物がそっと覗き込んだ。

 ゼオンもその隣まで歩み、目撃する。


「あっれ~。随分静かだな~」

「声は出さないように」

 キョロキョロと辺りを見回すポップな女性と、電子ロックを解除するために、タッチパネルを操作している覆面の人物。彼らが揃って見える。


 先頭の隊員が、ゼオンに許可を求めるために顔を上げた。

『どうします? 発砲しますか?』

「待つ必要はない」

「あなた達に言っているのですよ、アーマード部隊の皆さん」



 ゼオンの周囲からではない。警戒していた向こう側から聞こえてきた。

 改めて視線を忍ばせると、喋っている覆面の男の代わりに、血塗りの女がしたり顔の笑みでこちらを見ていた。

「こういった状況に慣れていないのであれば仕方がありませんが、組織の程度が知れてしまうのは、こちらとしても歯がゆいものです」

 落ち着いた声のトーンではあるが、極めて挑発的な発言。


 これに反応してしまった先頭の隊員が飛び出してしまう。

『ならまともに撃ち合ってみるか! この人数を相手に!!』

 そこから四人の隊員も追従し、廊下を塞ぐように、立ちとしゃがみの二段陣形で銃を構える。

 タッチパネルを操作しながら発言していた覆面の男だったが、その指が止まった。


 同時に、隔離室の分厚い扉が横へスライドする。

 男は、キャンディの盾になるようなかたちで、部隊に背を向ける。

「危険なので中へ」

「ひゃ~! 過保護で偉いね、騎士ナイト様!」

 彼女はきゃぴきゃぴと飛び跳ねながら、独房の中へ。カナがいる場所への侵入を許した。


 ゼオンはまだ壁越しに状況を見ている。

 ここから誰もが抱くであろう懸念について、唯一銃を構えていない横の隊員へ問いかける。

「ブルー・アーマードは、研究所に送ってあるはずだな?」

『今日の担当の方が手続きしてくれているかと』

 そう。警察にとって最悪な状況は、カナがブルー・アーマードを身に纏い、暴れ始めること。

 すると覆面の男が、自身の胸元へ手を寄せる。


 撃ち合い……に移行される前の先手を取る。

 銃を構えていた五人が、一斉に引き金を引いた。

 目にも止まらぬ速さの実弾、及びエネルギー弾は、既に対象を蜂の巣にしていなければならない。



 肉を貫く音の代わりだった。

 ガンッ! ジィィッ。カンッ!!

 金属同士が衝突する音と、焼ける音。交互に響く。


 着弾点の直前で火花が舞うのみで、標的の男に一切の損傷が見られない。

 一見すると不思議な現象。全員が戸惑い、射撃を止める。


 その答えは、物体が動きを止めたことで、すぐに明らかとなった。

 攻撃を封じていたのは……紫色の、複数の小さな立方体。最後に放たれた射線へ立ち塞がる位置で、宙を漂っている。

 彼の背を守るようにして、その四角い盾が、高速で動き回っていたのだ。


「生憎ですが、銃器は家に置いてきました。しかしご安心を」

 男が指を鳴らすと、立方体たちはあるじの右肩付近へ移動。

 右腕を伸ばす。彼が摘んでいる球体を取り囲むようにして結合した。

 息を呑む音が、警察官たちの間で連鎖する。

 彼らにとっての理想であり、同時に頭を悩ませる脅威……。



 ルービックキューブのような形状が姿を現したからだ。

「代わりの武器ならば持ち合わせています」

 中央で立体的に主張する、日食模様の輝きを放つ球体。


 彼はそれを、親指で押し込む。

 瞬間、目に見えるような風圧が辺りを襲う。

 一度連結したキューブは、再び分離。今度は伸縮性を伴って立方体が変形する。


 あとは、この場にいる全員が経験したことと同じプロセスだ。

 紫の装甲が彼の身体に付着し、新たな姿となってこの場に佇む。

 彼はゆっくりと、しかし威圧を漂わせてこちらへ振り返った。


 まず目を引くであろう部分は、腹部の、まるで敵を睨みつけるように鋭い眼光を持った、山羊の意匠。その口元から全身へ行き交うように、血流の如き赤紫の光が巡っている。

 左右の形状は非対称であり、特にその象徴として、右の腰部から膝までを覆う装甲板は、固まった布が垂れ下がっているようだ。

 そして胸元に埋め込まれているのは、彼が装着の際に押し込んだ、日食の球体。


 彼は僅かに顔を上げ、静かに、だがはっきりと告げた。

『勝手に名付けられる前に名乗っておきしょう。この装備の名前はアーマード・エクリプス。あなた達のような量産型が相手にしても、ただ影に呑まれるだけだと忠告しておきます』


 またしても、だ。

 警察の努力も虚しく、組織が相対する者たちは、次々と未知のアーマードを繰り出してくる。そういった図式となっている。


 となれば、もはやプライドの勝負となろう。

『撃て! 撃てぇぇぇ!!』

 新たな敵に臆さず、隊員たちは再び射撃を始めた。

 敵の装甲にも何か対処はあるはず。それを望み、探っての行動だったのだろう。



 打開どころか、活路を封じられるような結果となった。

 銃撃は命中している。しかし、被弾する直前に薄紺色の楕円が力場となって立ち塞がり、反発を彩る。衝撃を吸収する。

 エネルギー弾は消滅。銃弾は跳ね返るでもなく、ボロボロと彼の足元へ転がる。

 銃弾の雨を受けながらも、アーマードを身に纏った彼は、優雅に前進する。


 全ての攻撃が、彼の歩みを押し戻すには至らない。

『近接に移行!!』

 射撃を止める。立っていた列の三人が前へと走り、各々が選んだ近接武器を構える。

 先行した二人はバトルナイフであり、鋭い先端で貫こうとまず一人が突き出す。



 それを待っていたかのような動きだった。

 エクリプスは裏拳を使い、ナイフを持つ手首を狙って横へ押しのける。相手の体勢が前のめりによろける。

 瞬間、鋭い膝蹴りが、警察官の頬を抉った。


 更に間髪入れずにだ。

 続くもう一人のナイフに対しては、見ずに対処した。

 突きに対してすぐにしゃがみ、逆にアッパーカットを繰り出す。


『ごふっ……!?』

 血反吐の声が聞こえた彼の頭部を掴み、壁へ押しつけた。


 そしてもう一人は……電磁警棒だ。

 中まで染み渡るであろう電流で、エクリプスを無力化しようと振り下ろす。


 それに対しては、たったの指二本だった。

 箸で摘むようにして縦振りを止めてみせた。電気ショックを受けることもない。



 警察官たちが真に驚愕したのは、この後のこと。

 警棒から溢れ出ていた電流……。不規則に折れ曲がった、稲妻線のはず。


 それが突然、均一の線を描く。

 エクリプスの腕を滑るようになぞり、目指す先は、胸元の日食。その中へと吸い込まれていく。

 やがて、エクリプスの全身を巡る赤紫のラインに、光が灯る。


 そして、その装甲の何処かから、低く無機質な機械音声が鳴った。

『フル・チャージ』



 認知したすぐ後のことだ。

 彼の身体を起点に、今度は床と水平に、薄紺色の楕円が迸った。


 ブォォォンッ!!

 波打つように広がる衝撃波。彼のすぐ傍にいた二人が吹き飛ばされる。

 周囲の壁、その至る部分へヒビも入れた。


 それだけではない。このアーマードは、電流を吸収していた。

 衝撃波にその属性が伴ったことにより、周囲一帯に電磁波が迸る。



 特に、壁に押しつけられていた隊員が、直に影響を及ぼす。

『あがああああああああああッ!!』

 致死量の感電。結合部から黒煙が漏れる。

 絶命の声が廊下中に響き渡った。





 変わらぬ景色。変わらぬ姿勢。変わらぬ時間。

 耐えるように訓練された。だからこの七日間を、無事乗り越えることができた。


「やっほ~! 迎えに来てあげたよ、お人形ちゃん!」

 甲高い声が、手をフリフリしながら視界に入ってくる。

 組織の技術担当そのいち。カナをよくおもちゃ扱いする女性、キャンディ・ブレア。

 ガラス越しに真正面へ立ち、下から覗き込むようにその身を斜めへ傾ける。

「ちょっと痩せた? けど胸の贅肉は相変わらずすっごい!」


 デリカシーのない発言。

 もはや動じず、カナは、笑みの曲線を保つことができている。


 すると、キャンディの後ろからもう一人が入室する。

 組織の潜入担当そのいち。今はどの名を名乗っているのか分からない。

 アーマード・エクリプスの力で、立ちはだかる警察たちを無力化したのだろう。


 キャンディが彼の方を向く。

「お人形ちゃんは傷一つない新品同然。よく教育されたワンちゃん達だね」

『ゼオン本部長殿の手腕と言えよう』


 エクリプスの手が、胸元の球体を掴む。彼はそれを引き抜く。

 カナを囲んでいる分厚いガラスに押し当てた。

 微細な揺れが、ガラス全体及び、カナの足元にも伝わっていく。


 開いたままの扉――廊下と隔離室の境目を、一人の人物が踏む。

 仮面の彼だ。

 武器を持たずに、日食の球体を直視しながら言う。

「ビーム兵器も遮断できる防弾ガラスだ。アーマードだろうと――」



 パリィンッ!!

 お誂向きすぎるタイミングだった。

 全方向に立ち並ぶガラス。その壁面部分が全て、一瞬で砕けた。

 四散するのではなく縦に崩れ落ち、破片が雪原のように降り積もる。


 その様子を手で大げさに示したキャンディが、機嫌の良い声でゼオンに問う。

「へ~。それってどこにあるんですか~?」


 ここから離れる時だ。

 カナは、もはや慣れ親しんだ椅子から、自らの意志で立ち上がる。


 しかし、ゼオンが身を屈めた。

 もう二人分の影。アーマードを装着した警察が、廊下から銃を構えた。


 発砲と、エクリプスの振り返る動きはほぼ同時。

 彼は球体を、円盤投げのような要領で放る。射線上の弾丸を全て弾き飛ばす。


 そこから真っ直ぐ。

 ガンッ! ガンッ!

 警察の側頭部へ命中。跳ね返り、壁へ。


 そしてもう一人の側頭部……。

 ビリヤードのような反射でヒットさせるという、容易い無力化。

 役目を終えた球体は、独りでに、胸元の窪みへと戻る。


 ゼオンが彼らを見下ろす。

 うめき声を上げているため、完全に気絶しているわけではない。だが、すぐに立ち上がれる程度の衝撃ではないことも明らかだ。


 エクリプスが冷徹に注釈する。

『生身で直撃すれば肉体が分離するでしょう。私も、中央の本部長殿を死なせることは、本意ではありません』

「下の者に人権は無いとでも言いたげだな」

『特権階級の者たちがそうさせてきたことでしょう。あなたならば分かるのでは?』


 カナは歩みを始め、破片が積もるラインを広い歩幅で越えた。

 キャンディが先導し、カナ、エクリプスの順番で隔離室を後にする。

 全員がゼオンに背を向け、正面に見える全面ガラス張りの大窓へ向けて、進もうというところ。


 ゼオンが忠告の言葉を発する。

「一階にも人員は待機させているぞ」

「律儀に元きた道を戻るなんてこと――」

 キャンディが煽る途中。



 僅かな布の擦れる音から、エクリプスは察した。

 振り向きざまに、彼はしなやかな右脚を高く上げる。


 ガンッ!

 ゼオンが取り出そうとしていた物体を蹴り飛ばした。

 それは、他の警察たちも装着している、ガード・アーマードのキューブ。儚くも床へ転がり落ちる。

 最後の抵抗が不発に終わる、という流れだ。


 膝をついたゼオンをキャンディがニヤニヤと見下ろし、自身の顔を指差しながら言う。

「そのお面……ちゃんと前見えてます? 視力検査で不便じゃないですか~?」

 言われた彼は静かに息をつき、仮面の位置を正す。

「気になるなー、とっても気になる!」


 すると彼女は、目指していた方向を向き、『あるもの』を確認。

 そうしてほくそ笑み、ガラスの向こうにある存在を人差し指で示した。

「じゃあほら……あそこ! よく見てみてくださいよー!」

 この中央警察署の隣には、ほぼ同じ高さの商業ビルが建っている。最上階のテナントは現在空きの状態。


 組織が買い取ったからだ。

 その暗い空白の場所に、一人の男性が足を踏み入れている。



 彼は今朝、隔離室にて会った。

 キャンディがニタリと笑う。

「ダメじゃないですか~。厳重な取り扱いを迫られてる人が、のほほんと外に出たら。お昼休憩の食べ物は先に買っておかないとね~」


 組織は、彼を『使った』のだ。

 今は命じられるままの操り人形でしかない。口はぽかんと開き、虚ろな目の状態。

 そして、両手で大事に握りしめているのは……。



 青の立方体。

 本来ならば、ここよりも遠い場所に置かれていなければならなかった。


 彼は引きずった足取りで、同様に大きなガラス張りへと近づく。

 一度大きく胸を反らし……。

 振りかざした。



 自身の頭をだ。

 額をガラスに打ち付ける。一撃ではない。何度も繰り返す。

 肉が先に砕けようとも。血が出るのが先だろうとも。

 彼はその身の限界を知らず、もはや、苦しみが表情に浮き出ることもない。


 虚しい努力が実る。

 ガラスに放射状のヒビが入ったのだ。


 それを確認する、という知能だけは残っていた。

 彼はその行いをやめ、正面を向いたまま、後ろへと長く下がる。

 フロアの中央に到達。



 最期の輝きが始まる。

 両手はキューブの為に使いつつ、しかし、これまでの無気力な動きとは違う。

 大きな振り幅で両脚を動かし始めた。


 垂れていた血が飛び散りそうな勢いだった。

 目指す先は、ガラスを越えたその向こう。



 空へ。

 一つの贈り物の為だけに利用された彼は、全身でガラスを打ち破った。

 救いはない。彼の身はただ落ち、あの世へと逝くのである。


 そして、最後の要領を遂行。

 手の中にあったキューブを、警察署の方へと放り投げた。



 繋がれる距離に達する。

 青のキューブが、小刻みに揺れ始める。

 カナの脳裏に、愛してやまない声が過る。

 呼んでいる。


『カナ。……カナ…………』


 自分の名前を、呼んでくれている。

 落下するはずだったキューブは、まるで見えない羽が生えたかのようだった。

 突如としてベクトルを斜め上へと変え、浮き上がった。


 立ちはだかるは、警察署を近代的に彩るガラス張りだが……。

 ダァンッ!!

 たった一撃で粉砕される。

 そこからキューブは速度を緩め、直進する。


「うわっと!」

 前にいたキャンディが咄嗟に横へ飛び退き、その後ろ。

 待ち構えていたカナの、花開くような両手にすっぽりと収まった。


「あっぶな~い! あなた達の感動の再会に巻き込まれたくないんだけどー!」

 耳障りなノイズ……。

 受け流し、手元の愛しい存在に集中する。


 エクリプスが、キャンディが、吹き抜けとなったガラスの方へと先に歩み寄る。

 カナもその行動に従い、風を感じる。

 あと一歩で身を投げ出す、絶壁まで来た。


 紫の鎧の彼が、キャンディの腹部を両腕で抱え込み、その身を持ち上げる。

 ゼオンに背を向けつつ、両者ともに、別れ際に顔だけ彼の方へ向ける。

『次にお会いする時、あなたがどういった立場であられるか楽しみです。ゼオン・マクラウド本部長』

「じゃね~!」


 手を横に振りながら、彼女は、抱えている男の行動に身を委ねた。

「ヒャッフ~~~!!」

 飛び降りての脱出。これが脱獄の最終手順。


 次はカナだが、恐怖という感情は無かった。

 両手に包み込んだキューブを、胸元まで掲げる。

 ずっと傍にいてくれると実感できる。


 より優しく、人間らしく微笑むことができた。

 身体ごと振り返る。

 仮面の彼と、おそらく目が合う。


 しばし直視し、満足した。

 穏やかな気持ちのままに目を閉じる。



 後ろへと倒れ込むようにして、その身を宙へ捧げた。

 強風と重力により、長髪が、スカートが激しくはためく。

 もっとこの浮遊感を堪能したいとも思ったが、諦める。地面へと到達してしまう。


 キューブの飛び出た部分を、両の親指で押し込む。

 凍てつく温かな青の光が、カナを包み込んだ。

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