154.狙撃手と始まりの街防衛戦の開始
俺が目を覚ますと、時計は昼前を指していた。
今日は土曜日。
始まりの街防衛戦の一日目である。
俺はしばらくベッドで惰眠を貪ってから、のそのそと起き上がる。
どうでもいいが布団の中で自堕落に過ごす時間の何と幸せなことか。
至福とはまさにこの時間を示す言葉であろう。
俺はさっと顔を洗って着替えると、キッチンに向かう。
トーストにハムエッグ、ミニトマト、ヨーグルト。
そしてコーヒー。
美味い。
いや俺の料理の腕などたかが知れているが、ハムエッグなんて誰が作っても失敗しないしな。
だが焼き過ぎは良くない。
目玉焼きもベーコンエッグもそうだが、黄身は半熟こそ至高である。
とろりとした黄身が乗ったハムを口に放り込むと、何とも言えぬ幸福感が舌に行き渡る。
安っぽい舌だと笑われても構うまい。
美味いものは美味いのだ。
やはり朝はこれだな。まあもうすぐ昼だが。
食事を終えると、掃除機を出してきて部屋の掃除を始める。
平日は仕事があって掃除などできないので、掃除機をかけるのは自然と週末になる。
ふーむ・・・。
俺は使ったことがないのだが、かのルンルンバとかいう自動お掃除マシンは便利なのだろうか?
放置しておくだけで見違えるという評価もあれば、あまり綺麗にならないという評価もあるので迷いどころだ。
お試しで購入するには、数万円という価格はちょっと高いからなあ。
俺は部屋をぐるりと見回す。
モノはあまりない。
ベッドや本棚、クローゼットの他には、パソコンやVRヘッドギアくらいだ。
我ながら整理整頓されていると思う。
散らかっているのがあまり好きではないのだ。
言い方を変えれば、趣味が少ないとも言う。
まあいいだろう。
今はVRゲームにハマっているからな。
とはいえゲームである以上、いつかは引退することになるのだろう。
もしくはサービス終了が先か?
日本で有数の大人気VRMMOだから、サービスが終了する未来など全く想像できないが・・・。
ああ、あるいはEarth World Onlineより遥かに面白いゲームが登場して、そちらに乗り換える可能性はあるか?
まあそんなことは、そのときになってから考えればいい。
今現在は、今ハマっているゲームを無心で楽しめばいいのだ。
どうなるかわからない未来のことをうだうだ考えては、せっかくの楽しみに水を差すからな。
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そういうわけで夜になってからゲームにログインした。
イベント開始にはまだ早いが、すでに始まりの街周辺は溢れんばかりのプレイヤーでごった返している。
とりわけ正門である南門はすごい。
右も左も人、人、人だ。
バーゲンセールの人混みを彷彿とさせる。
誰も彼もがワクワクした表情でイベント開始を待ちわびている。
無論、俺もその一人だ。
生産職のプレイヤーは戦闘には参加できないが、地面に罠や馬防柵を設置したり、フレンドにポーションを配ったりしている。
長丁場になることが予想されるので、特にHPポーションは大切だ。
一撃即死の俺はHPポーションなど不要だが、俺のようなピーキーなプレイヤーはごく一部だ。
イベント開始時間が近づいたので、俺はそっと正門から離れる。
人が多すぎるせいで、多少怪しげな行動をしても見咎められることはない。
俺はそのまま初心者エリアである草原まで移動し、目星をつけておいた小高い丘に登る。
丘の頂上に陣取った俺は、身を低くして正門を一望する。
1km以上離れているので遠いが、それでも溢れんばかりのプレイヤー群を充分に視認できる。
こうして遠くから睥睨してみると凄まじい人数だ。
ゆうに数千人・・・もしかすると、すでに1万人を超えているのではなかろうか。
壮観とはまさにこのことか。
【これより公式イベント”始まりの街防衛戦”を開始します】
始まった!
俺は丘の頂上で腹ばいになると、白銀のライフルをセットする。
とはいえまだPKはしない。
開戦して場が混乱し始めてからが勝負だ。
貧弱な俺が功を焦ってもろくなことにならない。
ところで・・・俺はこの手の防衛イベントは初めてなのだが、モンスターの群れはどこからどのように湧くのだろうか?
正門の前にわらわらと大群がポップするのだろうか。
それともどこか遠くから――。
ドド。
・・・ん?
ドドドド。
・・・何の音だ?
ドドドドドド。
これは・・・地響きだ。
いったい何事だ?
どこから聞こえる?
ドドドドドドドドド!
――――気のせいか、後ろから聞こえるような?
俺が振り返ると、初心者用のモンスターであるハムスターがぴょんぴょん跳ねながらやってきていた。
なあに、数は大したことない。1000匹くらいだ。
なお位置関係はこうだ。
ハムスター(1000匹)→→→俺→→→正門
ドドドドドドドドドドドド!!!
俺は1000回踏まれて死んだ。




