第6話 発足 Rサポート部 蒼き一手――オモテ
「この中に、ベイルがいる……?」
「そうです。ほぼ確実に、この中に」
「もし、ベイルの正体がわかったら……どうするの……?」
音重が震えながらした質問。
それに対して、姫矢ツルギは冷酷に答える。「盗みを正当化しようとした事への、悔いを与えます」
音重が衝撃で鞄を落とし、中のものが溢れ出していた。
「それは私刑じゃないの……!?」
照喜納芒果先輩が、疑念を吐露する。
緊迫感が立ち込める室内の空気。生徒指導室というのも、それを助長する。
僕もここまでの窮地は、経験したことがない……。
考えろ、考えるんだ……!逆転の一手、いやその先を……!
その時、よく通る声が沈黙を破った。
「あの……いいかしら、ツルギくん」
伊佐波だった。ていうか、ツルギ”くん”……?いつからそんな仲になってたんだ。
「はい、カリンさん」
「私たちリフレッシュのメンバーも初耳なんだけど……学校には通してるのかしら?この話」
そうだ。こいつらは生徒を有無を言わさず連れ出し、開幕早々容疑者呼わばり。挙句の果てに刑務所まがいの労働を強いている。
護衛対象のアイドルが質問しているんだ、ふざけた返答はないよな?
姫矢ツルギは俺たちを一瞥した後、口を開いた。
「ええ、昨晩の内に済ませましたし、校長からの了承も得ました。アサヒ先輩、お願いします」
「任せなさい、ツルギくん」
アサヒと呼ばれた3年の女子生徒が俺たちの前に移動する。
紫髪のハーフアップにイヤリング。かなり知的な女性といった印象だ。
「皆さん、始めまして。蒼霞高校3年、リフレッシュ護衛部隊“スプリガンド”の更科朝陽です。ツルギ君は厳しいことを言いましたが、怖い思いはさせませんから。安心してね」
そういって、彼女は小さく笑いかけた。
若干ぎこちない笑顔。だが、重苦しい瘴気を吹き飛ばすには十分だった。
「よ、よかった~」
容疑者その1、Aクラスの女子生徒である小野寺玲が安堵のため息をつく。
「で、でも怪盗ベイルって男って聞きましたが……?」
「それはね、あまり知られていないんだけれど、最新の技術では容姿をホログラムで自在に変化させられる。つまりベイルが男性とは限らない、だから女性も集められたの。これで満足かしら」
更科アサヒ……ああ、もう面倒くさいからアサヒ先輩でいいや。
彼女の説明に、レイは俯きながら礼を述べた。
「そして、あなたたちは通称Rサポート部として、写真撮影やライブのスタッフ、リフレッシュのケアマネジメントをこなしてもらいます。怪盗ベイルが名乗り出るか、全く関係ない人物であることが証明でもされない限りは、基本出席でお願いします」
「あの、更科先輩。今日は友達と遊ぶ予定が……」
そう言ったのは、クラスメイトの男子である荒神倫太郎だ。
「ご心配なく、荒神くん。明日の放課後から活動を開始することになっているから」
ツルギが異常なプレッシャーを放っていたが、臆することなくアサヒ先輩は続ける。
この人、モテるだろうな。
そんなどうでもいい事を考えているうちに、ホームルームの予鈴が鳴った。
アサヒ先輩が資料を閉じ、他のスプリガンドメンバーも解散の準備に取り掛かる。
「そろそろお開きにしましょう。ただ、その前に……」
アサヒ先輩が突如、僕ら容疑者……もといRサポート部に頭を下げたのだ。
「えっ……!?いきなりどうしたんですか先輩!?」
ここにきて、誰よりも早く僕が発言した。
ダンマリも程々にしなければならないからだ。
「ごめんなさいね……不安分子の摘出の為に巻き込んでしまって。でも、リフレッシュは今人気故の危険に晒されているの」
頭を上げると、僕らを真っ直ぐ見つめ、こう締めた。
「私たちもできる限りの便宜を図るから、協力をお願いします……!」
真っ直ぐ。余りにも真っ直ぐ。
僕らは「はい」としか言えなかった。
※ ※ ※
各々が去っていった頃、僕はどことなく喧嘩腰の姫矢ツルギの方を向く。
「……さっきからジロジロ見てるけど、何か?」
少し冷たい目で、ヤツを見つめ返す。
すると、ヤツは僕に近づくなり胸ぐらを掴みにかかった。
「!!お前、何すん――」
「早く言っておくべきだったな……」
そのまま、ドスの利いた声でこう告げた。
「……怪盗ベイルとの共通点で絞った3人の中で、お前が一番怪しい」
御名答……。コイツ、どこまで……頭がキレるんだ……!?
「ただの推察だろう。サポートそのものはいいとして、これで勘違いでした、すみませんって言えるのか?」
ここで挑発成功……のはずだった。
「それくらいなんだ。俺はな……」
その時、ツルギが目を血走らせ、憎悪を滾らせた……!
「……“盗み”が美化されるのが、許せない……ッ!どうしようもなく、なッ……!」
そして僕の胸ぐらを乱暴に突き放すと、何も言わず去っていった。
……核心を突いた推察も、あの様子だと世間には公表していないな。
まあいい、警察への挑戦も飽きてきたところだ……。
朝の喧騒の中、崩れた裾を整えながら僕は決意する。
荒神、小野寺……僕のせいで迷惑をかけてしまったな。すまない……だからこそ、俺が解決してやる。
ツルギ、お前が僕の正体を突き止めようとするならば、僕はそれを覆そう。
生徒指導室でずっと考えていた策を、実行に移してやる。
――昼休み。連中のいない場所で、僕はミカンを剥く。
「使わせてもらうぞ、音重」
――8日後の17時31分 東京ニューツリーで とびきりのショーを行おう
“貴殿の挑戦”に 期待している 怪盗ベイル――
“火”とだけ右手で持ったボールペンで追記し、ほくそ笑む。
これをテレビ局に送り込むだけ。
もちろん、方法は秘密。
「さて……もうひと頑張りしようっと」
“オモテ”の僕のすることは、ここまで。
昼休みの終わりを告げる予鈴、そしてミカンの爽やかな香りと共に、僕は教室へと向かう。
「手合わせ願おうか、姫矢ツルギ……!!」
※ ※ ※
<午前1時 代々木公園>
桜舞い散る月明かりの下、俺は待ち合わせていた人物と対峙する。
「天晴れだ、この短時間で辿り着くとは」
「いいや、少してこずったけどねー。それより本当かい、取引って言うのは?」
「無論だ。舐めてもらっては困るな……」
俺は先日手に入れた鏡を取り出す。
「さあ、始めようか。この怪盗ベイルとの、取引を」




