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第5話 赫き守護者 姫矢ツルギの策略――オモテ


<朝 電車内>


 朝、霜凪トウマはチーズトーストを齧りながら通学する。

 どうでもいい話だが、家から高校までの40分間を電車1本で済ませられるのはありがたい。


――“<話題>アイドルグループ・リフレッシュと怪盗ベイルのコラボレーション――闇夜のヒーローと共に、混乱の鎮静化ライブ”――


 昨夜行われたリフレッシュの歓迎ライブは、ネットのトップニュースに上がるほど話題を呼んでいる。

 世間じゃ怪盗ベイルを王子様みたく担ぎ上げ、リフレッシュの人気も、これまでのアイドルとは一線を画すと言わしめる上昇ぶりだ。


 僕は記事をスクロールしながら、片手に持った食後のカフェオレを口に含む。


「まったく、みんな騒ぎ過ぎなんだよ。どうせ一か月もしたら、誰も話題にしなくなるでしょ」


ほんと、それ。怪盗もやり辛いから早く静まってほしいよ。


誰かの話し声を小耳に挟んで、こんなに共感するとはね。


そんなことを思いながら、再びカフェオレのカップを口に運んだとき――


「霜凪くん、おはよっ」


ん?誰だ――


「おは……ブホッ!?」


驚きで激しくむせ返る。


 言っておくが、何もおかしな話ではない。目の前で僕のスマホを見つめる、グラサンマスクの不審者――なのに黄色のうさ耳リボンの主張が激しい、目立ちたいのか目立ちたくないのか分からない人間が挨拶してきたんだ。ウラは怪盗の僕だって、動揺するさ。


「ゴホッ、ゴホッ……!お、おはよう音重さん」


 僕が名前を呼ぶと、彼女は驚いたようにサングラスをいがませた。


「ええっ!何でわかったの!?」


「バレバレだよ」


まったく、何のためのグラサンマスクなのか……。



  ※        ※        ※



 なんやかんやあって、新原宿から音重みかんと高校まで歩くこととなった。


「みんなの目線をめっちゃ感じたよ~。昨日は緊張で朝ごはんも昼ご飯も抜いちゃったし、トホホ……」


「ま、まあ……?それは今後の糧になると思うよ」


一応、フォロー(?)しておいた。このアイドル、暑いからといってマスク外してるし。


 そんなとき不意に、彼女へある疑問が浮かんだ。


「そういえば、自己紹介のときも言ってなかったけど、音重さんって前はどこに?」


「ん?私は埼玉生まれ埼玉育ちでー、去年の12月にあったリフレッシュのオーディションに受かったから、こっちに来たんだよー」


「じゃあ、実家じゃなくて一人暮らしだったりする?」


「ええっ!!なんで分かるの!?……もしかして、ストーカー?」


「ストーカーじゃなくても予想できるわ、それくらい!」


引き気味に距離を置く音重に、今日も振り回されてしまうのだった。


 「あっ、そうだ!昨日のお礼しないと!」


音重が思い出したように、鞄から何かを取り出す。


「はいっ!採れたてのミカン、甘くておいしいよっ!」


彼女はつやつやのミカンを僕に手渡した。


「お、おう。サンキュー」


アイドルから洒落の利いた贈り物をもらうなんて、“オモテ”の僕もついてるな。


「ほんとだったらね、ベイルにもあげたかったんだけど……しょうがないよね」


ブホッ


ヤベッ、咳き込んじまった……!


「ん!?今笑った!?」


音重が眉間にしわを寄せるのが見える。


「い、いや~?気のせいだ、気のせいっ!」


「いや絶対笑った〜!!」



そうだ、君は知らなくていい。その怪盗ベイルが、君のミカンを頂戴していることなんて。

 



 ここまでは良かった。ここまでは。



だが正門を通過する直前、鋭い視線を感じたと思った――


「待て」


――その矢先、僕の肩を後ろから掴む者が現れた。


「君は……」

振り向くと、目つきの悪い白髪の生徒の顔がどっしりと構えていた。


「俺は姫矢刀伎(つるぎ)。音重さんも一緒に、時間をもらうぞ」


「えっ!?ちょ――」


「おいおい……」


 そして有無を言わさず、僕らを生徒指導室に連れて行った。



  ※        ※        ※



<ホームルーム開始前 生徒指導室>


 「何の集まりなんだ……?」


 中に入ると、僕らの他に男女生徒数人が座っていた。しかもこいつら、ウチのクラスメイトじゃないか。

 背後には異質なオーラを放つ一組の男女の姿と、リフレッシュのメンバーもいた。


「お前は座れ。音重さんは後ろに」


姫矢と名乗った男が、冷たく指示する。


ほんと、初対面から失礼なヤツだ。

まあ……こいつらが何者かは大方理解したが。


「忙しいんだ、早く済ませてくれ」


敢えてそう言いながら、僕は椅子に腰かけた。


 その態度に何か思ったのか、姫矢の表情が突如消える。


「そうか、なら結論からいこう」


「お前たちの中に、怪盗ベイルがいる」


 姫矢の第一声は、これだった。


ほう……やっぱり昨夜の護衛部隊は小手調べの為だったわけだ。


確かに、俺(ベイル)と同じ左利きでリフレッシュいや音重みかんと関わりのある連中だ。


だが、姫矢。その答えは僕も想定済み――


だが、姫矢の口は閉じることなく動き続ける。


「……だからお前たち容疑者は全員、俺たち護衛部隊“スプリガンド”の監視のもと、リフレッシュのサポーター部として身の潔白を証明することになった」



何だと……!?


 疑惑をかけられた生徒たち、そしてリフレッシュのメンバーまでもが困惑を隠せずにいた。



 その僕も、“オモテの顔”が崩れん程の焦りを心の内にしていた。


 姫矢が続けた、この内容。それは俺(怪盗ベイル)の動きを封じると共に、あからさまな宣戦布告でもあった。


クソッ……!!俺にチェックをかけたつもりか、姫矢ツルギ……ッ!!



 マズい……この盤面、どう覆す……!?





次回の更新は3日(土)の予定です。

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