第4話 初ライブ終了 見えざる王手――ウラ
「フッ……その様子だと、平気そうだな」
彼は爽やかに笑いかけると、右手に黒い銃を構える。
それには形状の異なる、二つの銃口がついていた。
「さあ、歌うんだ。君たちの歌を、君の歌を届けるんだ」
「歌……う?」
「そうさ。この混沌を、君たちがリフレッシュするんだ。さあ、歌え!」
彼が引き金を引くと、銃口から細いワイヤーが射出される。
「盗むついでだ。歌う君に、空の旅を届けよう!」
「もしかして……く、空中ブランコ――!?」
ものすごい浮遊感と共に、空に舞い上がる。
一瞬身構えたが、風を感じて心が落ち着いてくる。
どれほど激しく宙を舞っても、ブレることのないベイルの腕。
あれ……顔が、熱い……?
……じゃなくて!
私は地上の混乱を見て、覚悟を決めた。
「うん……!私たちの歌を、届けてみせる!」
分かち合いたい この想い
搾りたての 愛情を
「これは……みかんの歌声……!?」
カリンさんが嗚咽を漏らす。
歌を聞いた人々は我に返り始め、混乱の渦が収まっていく。
「カリン、私たちも歌いましょう!」
芒果さんが呼びかけ、私の歌に2人の声が重なっていく。
どんな激情も、涙の激流も
私が全部 受け止めるから――
歌い終えると同時に、ベイルが私をリフレッシュのステージに降ろしてくれた。
会場を一望すると、周りにいた観客やマスコミ、そして護衛部隊までもが、歌の余韻に浸っているのが分かった。
「みかん……無事でよかったわ」
芒果さんが私の手を握りしめる。予想以上に強くて、びっくりしちゃった。
「ええ、ほんと。あと、うらやましいわね」
カリンさんが、安堵と嫉妬の入り混じった顔で小突く。
「あはは~……」
それを見ていたベイルが、拍手を始めた。
「君の初ライブ、中々よかったぞ」
それにつられた人たちも、彼に続き盛大な拍手を送ってくれた。
大き過ぎる充足感に、胸が張り裂けそうになる。
「みんな……ありがとうね!」
私は感動で潤みながら、笑顔で返した。
「ありがとね、怪盗ベイ……あれ?」
礼を述べようとしたが、彼の姿はどこにもいなかった。
「鏡と歌声、確かに頂戴した。ベールの彼方にごきげんよう、リフレッシュ」
護衛部隊の隊長が、思い出したように地団駄を踏む。
「くっそ~!覚えてろ!」
そこに、お宝の護衛にあたっていた2人の男性が目を覚ましてやってきた。
「ふぁぁ……よく寝た……」
「あれ……?ライブは……ベイルは……?」
「全部終わったわ!役立たずーッ!!」
こうして――私の、音重みかんの鮮烈な初ライブは、幕を閉じた。
※ ※ ※
俺は闇夜を駆けながら帰路を目指していた。
いや〜まじか……。
ここに来て、堪えていたモノが溢れ出てしまう。
「あーーッッ!!女子と密着するなんて、心音が気になってヒヤヒヤしたわっ!」
年齢=彼女いない歴の人ならわかるはず。女子に触れられた時の、あの緊張感……!
……しかし、妙だ。
護衛部隊にしては、弱すぎる……というより、素人すぎる。隊長らしき男も、指揮のキレがなっていなかった。
俺は手に入れた鏡をチラリと見る。
種類はともかく、これがグランドレガシーであることは間違いない。
ライブを中止せず、一見すると関連性の低いお宝とライブ……何だ、これは……?
俺の脳に、電流が走る。
「まさか……!」
クソ、やられたッ……!!
※ ※ ※
――観客席の端から、鮮烈な歓迎ライブを眺める2人の男がいた。
「まったく、アマチュアを囮に使うなんて、正義を名乗るにはイケてないぜ?ツルギ」
上官らしき青年が軽く咎めた。
「……必要なことです。リフレッシュに何かあれば、私が出ました」
ツルギと呼ばれた、赤と白のツートーンコートを羽織った少年が、冷たい目を向け答える。
「右手の操作がぎこちなかった。2丁持ちを基本としているヤツです、本来は左利きなのでしょう。それに音重みかんを救出した際の初動、僅かながら必死さが見受けられました」
「お得意の推察かい?で、結論はどうなんだ」
青年が催促する。
ツルギは眉間にしわを寄せ、ドスの効いた声で答える。
「はい、出現地域と照らし合わせると……」
「都立蒼霞高等学校2年Aクラスに所属する、左利きの生徒」
「その内の誰かが、怪盗ベイルです」
そう言う彼の目には、憎悪が宿っていた――。
後に出会うこの男――姫矢ツルギの存在が、僕のオモテも、ウラも追い詰めてゆく。




