第3話 蒼き疾風 怪盗ベイル、華麗に参上――ウラ
<17時57分 秋葉原中央ライブハウス>
今夜怪盗が来るというにも関わらず、小規模ではあるが、会場は満席。順調過ぎる程にライブ開始のカウントダウンが刻まれていく。
「だ、大丈夫でしょうか。伊佐波さん、照喜納さん……?」
この私、音重みかんは緊張していた。その上、恐れてもいた。
「大丈夫よ、みかんちゃん。私とカリンがついてるし、緊張は程々がいいものよ」
フォローしてくれたのは、3年の先輩照喜名 芒果さん。
マンゴーとは読まない。
「はっ、はいっ……!」
「それともあれかしら、ベイル様が怖いの?」
カリンさんが、あの怪盗からの挑戦状を弄びながら問いかける。
「い、いえ!そういうんじゃなくて……!」
このライブが延期や中止にならない理由も、マネージャーから聞いていた。
リフレッシュの人気がうなぎ上りである今、怪盗一人にリスケなんて考えられない。
そのための護衛部隊がある。心配するな、と。
その言葉を反芻していたら、ライブ開始10カウントが始まった。
9、8――
スポットライトの陰に、護衛の人たちがスタンバイする。
私は2回ほど深呼吸をする。
宝物の展示も兼ねた歓迎ライブ。お偉いさんたちの期待も背負わなきゃ……!
6、5――
3人が顔を見合わせ、互いに頷く。
おにぎり食べたし、大丈夫……!
「みかんの初ライブ、成功させましょう!」
「ベイル様も応援するくらい、楽しむわよ!」
「はいっ……!」
4,3、2――
右手を重ね、六芒星を作る。
「「「リフレッシュ……レディゴー!!」」」
1、0――
一瞬だけ音が凪ぐ。
それは静かな溜めに思えた。
直後スポットライトが全灯し、ミュージックがかかると共に、私たちは一気にステージへ駆け上がった。
「みんなーっ!!お待たせーっ!!」
芒果さんの赤い衣装が、始まりを告げる。
「今日は新メンバーの初ライブ!!みんなの応援、よろしくねーっ!!」
リーダーのカリンさんが呼びかけると、観客席から歓声が沸き起こった。
「あ、あわわ……!」
「さ、自己紹介して」
カリンさんがウィンクしてきた。
きっ、綺麗~っ!
けどっ、ちょう……超緊張する~っ!!
「はっ!はじめまひぃて!この度リフレッシュに加わらせていただきました、音重みかんですっ!不束者ですが、よろしくお願いしまっ!……あちゃ〜」
たどたどしい自己紹介に、フォローの笑いが返ってくる。
「いいぞ~!かわいい~っ!」
「みかんちゃ~ん!頑張れ~!!」
何だろ……?こ、これ……悪くないかもっ……!
次第に、音楽が爽やかなイントロへと突入してゆく。
「「「「みんな、リフレッシュしちゃお!!」」」
カリンさんと芒果さんと一緒に、始まりの決め台詞をいえるなんて……っ!!
宝の鏡の下で、私たちは歌い始めた。
かじった果実は どんな味?
酸い? 甘い? それとも苦い?
鮮やか過ぎて 絶頂――
その時、会場から突如光が消えた。
観客席からざわめきが起こる。
「なんだ、アクシデントか……?」
「なんだよ……こんなときに」
「おい、護衛部隊はどうした……!?」
私たちも警戒を強める。
「こ、これって……」 「ええ、彼ね……」
「もう少しタイミングを考えてくだされば~」
闇の中で、混乱と不安が膨れ上がる――
やがて、正面のスポットライトが1つ、輝きを取り戻す。
鏡を照らす明かり――しかし、その鏡はなくなり、いびきをかいて眠りこけた護衛の醜態を見事に映し出していた。
「鏡が、ないっ……!」
護衛部隊も慌てる中、闇夜に声が轟いた。
「……宴の時間に失礼する」
明かりが再び消え、闇が覆う。
「護衛がいると聞いて、気を引き締めていたが……どうやら俺の杞憂だったようだ」
「嘘……」
蒼いコート――少し長めのダークブルーの髪――そして鏡を抱えた仮面の男。再度明かりがついたとき、その犯人の姿が鮮明に現れた……!
「わが名は闇夜を駆ける蒼き空、怪盗ベイル!このお宝、丁重に頂いてゆくッ!!」
ベイルの登場に、会場全体が騒然とする。
「初めましてっ!ベイル様っ!!」
……カリンさんを除いて。
「嘘っ……怪盗ベイル!?」
「生で見たの初め――キャッ!」
「ま、マスコミィ!?」
なんと、観客に紛れていたマスコミが、ベイル登場と共にステージによじ登ろうとしていた。
「いけない、彼らを止めて……っ!」
芒果さんが焦りを見せる。
「情報が漏れていたのか……!護衛部隊、マスコミを抑え、ベイルを捕えろ!」
隊長らしき巨躯の男性の怒号と共に、会場は護衛部隊も入り混じるパニック状態に陥った。
「ちょっと、押さないで!」「スクープだ!これは――」
いや……やめて……
「みんな、落ち着いて……!」
しかし私の声は、みんなには届かなかった。
いや……いやっ……!
「落ち着いて――キャッ!」
人混みに飲まれ、私の身体が押しつぶされていく――
「みかんちゃんっ!!」 「あなたたち、いい加減に――」
芒果さんとカリンさんの声――
ダメ……息が……
「い……や」
目の前が真っ暗になった――その時だった。
何かが、私を強く引き上げる。
「え……」
急に風が冷たく感じる。ここは……?
「やれやれ……人助けは趣味ではないのだが。ケガはないか、新アイドル?」
「だ……れ……?……って、えええっ!!?」
――気が付くと、私は怪盗ベイルにお姫様抱っこされ、彼と共に空を舞っていた。




