第2話 オモテ→ウラ 怪盗ベイル
今夜狙うお宝を調べた結果、リフレッシュの新メンバー歓迎ライブに赴くことは想定済みだった。リーダーである伊佐波が挑戦状を持っていたのは、当然だったのだ。
しかし、よりにもよっておにぎり娘が新メンバーとは……!?
これまでは僕と関わった人間のいないところで盗みを働いてきた。
リフレッシュは新メンバー含めて3名の少数アイドルユニット。伊佐波だけなら余裕で立ち去れる。だが、2人以上は未経験。その上3か月前、学校はリフレッシュの異常な人気を危惧し、専属の護衛部隊を置いたと聞く……!そいつらの素性は把握しきれていない。マズい、もしかするとこのクラスにも……!?
焦りで周囲が見えなくなっていく。僕の脳内が負のスパイラルに陥る。
あのタイプの宝でなければ、意味がないんだ……!
浮かび上がるのは、病室のベッドで本を読む妹の姿――。
――凪くん?」
“グランドレガシー”じゃなきゃ、のどかを救えないんだ……っ!!
「霜凪くん!」
先生の声で、はっと我に返る。
「大丈夫?」
「ええ、すみません。少しうなされてまして……」
「居眠りすんなよ~、トウマ!」
辺りから笑いが沸き起こる中、音重が僕の右隣に座った。
「今日はたまたまお休みの席だったので。音重さんに色々と教えてあげてくださいね、霜凪くん」
先生が優しく微笑む。
……席くらい用意できただろ!
新学期初日に休んでくれたな、たぶん飯田……!おかげで僕の素性が割れるリスクが、どんどん上がっていくじゃないか……!
だが、仕方がない。
「もちろんです先生。音重さん、僕は霜凪トウマ。改めてよろしくね」
今は“オモテの顔”……“オモテの顔”。
先生は満足そうに頷くと、伝達事項の後教室を出ていった。
「霜凪くん、よろしく。あ、朝のおにぎりありがとね」
すぐ始業式が始まったので、僕らは子声で会話することになった。
「今夜初ライブなんだろ?大変だな」
「あ……うん」
何か引っかかったが、今日はそれ以降話すことなく下校時間が来たので、僕はその足で妹のいる病院へ向かうのだった。
※ ※ ※
<新東京総合病院 リフレッシュの歓迎ライブまで105分>
―山下 宗太 様
―霜凪 和花 様
―姫矢 月夜 様
ノックして病棟に入る。途中でいろいろ買ってきたから、手が塞がりがちだったけど。
「調子はどうだい、のどか?」
妹のカーテンの前に行くと、のどかの藍色の髪が、さらりとはためいた。
「うん、今日は元気だよ……わぁっ!お兄ちゃん、色鉛筆とスケッチブックを買ってきてくれたの!?ありがとう!!」
「喜んでくれてうれしいけど、病院では静かにな」
僕は人差し指を口に当てて、周りをキョロキョロした。
そして僕は、今日の出来事をのどかに話した。
そして、こう結んだ。
「お前にも桜並木を見せられたらいいんだけど」
「ううん。大丈夫だよ、お兄ちゃん。今はリハビリ中だけど、同じ病棟のお姉ちゃんと仲良くなれたし、楽しいよ」
のどかがまっすぐな瞳で僕に笑いかける。
その前向き過ぎる姿に、僕は自分が情けなく思えてくる。
でも、のどかには時間がない。父さんも母さんも、忙しすぎて実質別居。
彼女を救うこと、それは僕自身にしかできない。
「なあ、のどか……僕はお前の為なら何だってする。だから、希望を捨てないでくれ」
そう言い聞かせた時、時計が17時を打った。
ライブ開幕まであと60分、潮時か。
「ごめん、のどか。今日はもう行かなきゃ」
荷物をまとめ、立ち去ろうとしたその時――
「今日もありがとう、気を付けてね」
のどかがいつものように言ってくれる言葉。
「ありがとう、おやすみ」
今日は何故か、より温かく感じた。
※ ※ ※
――家に着き、僕はウィッグと仮面、青のロングコート、腰に特殊銃を2丁差す。
指紋が検出されないよう、手袋もはめて。
「僕は……いや、”俺”は行くぞ」
いつもこの姿になるたび、鏡の前で唱えるんだ。
「受けてもらおうか、怪盗ベイルの挑戦を……!」




