↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/12

第1話 始まりの邂逅――オモテ

新連載始めました。


 ガラスケースの割れる音。僕はこの音が大嫌いだ。理由は単純で、スマートさに欠けるからだ。


 僕はスマートに挑戦状を叩きつける、現代の怪盗。


<ヴェネツィアのクリスタルピアス を 頂きに参上する  怪盗ベイル>




「貴殿のお宝、確かに頂戴した。それでは皆さん、”ベール”の彼方にごきげんよう」



 警察の叫びと、けたたましいサイレンが響く美術館を、巻き取り音と共に立ち去る。その際当たったスポットライトが、目に染みる。


これは世間に存在を印象づけると同時に、逃走に失敗するリスクもはらんでいる。


 これも”ウラの顔”でしか味わえない極上のスパイスだ。


当然かもしれないが、用が済めば怪盗でいる必要はなくなる。


安全な闇の中で仮面と青髪のウィッグを外したとき、僕は“日常”に戻るんだ。


  ※        ※        ※


〈翌日……アンファンス・ピリオド0012年 4月 電車内〉


 新学期。“オモテの顔”の僕は、新東京の都立高校2年生、霜凪トウマだ。


茶髪だが、これは高校デビューってやつ。


それはともかく……巣鴨駅の桜並木を見ながら朝食のおにぎりを頬張るのも、いいものだ……


「グゥ~ッ」


……隣の席でお腹が鳴った。


「グゥ~ッ」


まただ。


気になるので横を向くと、オレンジのうさ耳リボンを付けた女子の顔があった。うちの制服、同じ学年……。でも、知らない顔だ。


ただ、僕のおにぎりをじっと見てはそっぽを向き、再びじっと見てはそっぽを向く。


「あ、あの~?よかったらおにぎり2個あるので、食べます?」


そういって、弁当袋からサラピンのおにぎりを取り出し、彼女に渡した。


「ひぇ!?く、くれるの!?」


チラリと、彼女は警戒するような目をする。


「み、見返りに変なこととか、しないよね……?」


「邪推はやめてもらえるかな?」


周りの様子を見ろとサインを送る。

「心配はいらないぜ」の意を込めて、アデューのポーズ……いかん、これはダメだ。


さっきから冷ややかな視線が、皮膚を刺してくる。


い、いっておくが。これは情けなどではない。ただ、“オモテの顔”では平穏に暮らそうと決めているからだ。


彼女は周りをきょろきょろした後、一息ついておにぎりを頬ばり始めた。


「いっただっきま~す!!……ん~~!!おいしい~!!」

事情は分からないが、よほど空腹だったのだろう。幸せそうに食べる姿を見て、なぜか心底安堵した。


その時、降車駅に着くアナウンスが始まった。

次は~新原宿~新原宿~

うちの生徒たちが扉付近に集まる中、僕も荷物をまとめて準備をする。

一瞬、空腹女子の方を見る。まあ、後は自分で何とかするだろう。


「じゃあな」


「あ……」

彼女は何か言おうとしたが、その前に僕はさっさと降車した。



  ※         ※        ※



 都立蒼霞(あおがすみ)高校。ここには少々、特異な部活がある。

2年Aクラスになったのだが、クラス替えという制度が存在しない。


これも12年前の出来事が原因らしい。


 扉を開けると、でかい声と共に、サムズアップが飛んできた。


「おはよう、トウマ!久しぶりだな!」 


コイツはムードメーカーの金井。

僕が平穏な日常を実感できる、数少ない友達だ。

久しぶりといって自分の席を探すと、凛とした黒髪美少女が足で隣の席を叩くのが聞こえた。彼女の名は伊佐波(いざなみ) 花梨(かりん)。特異な部活のリーダーを務めている。

僕が席に座ると、彼女は読んでいた本からしおりのような札を取り出した。


「あら霜凪くん、これが気になるの?」


「いや?」


「素直じゃないわね」


そういって口角を上げて見せた。周りから嗚咽が漏れるのを感じた。


「これはね……」


伊佐波が口を切ったが、タイミング悪く朝のホームルームが始まった。


――気になるも何も、その札は今夜始める怪盗ベイルの挑戦状。

つまり“ウラの僕”が宛てたものなのだから。



「さて、皆さんおはようございます!」


先生とにこやか~な挨拶をするのは、“オモテの顔”の基本だと思っている。


「連絡事項の前に、今日からこのクラスに新しいお友達が来ました!さ、音上さん!」

「は、はいっ!」


緊張した声と同時に、そそくさと教室の前に現れたその姿に、僕は思わず舌を噛んでしまった。



「ほっ、今日からみんなと一緒になります!2年Aクラス、音重(おとのえ)蜜柑(みかん)です!よろしくお願しますっ!」


直後、歓迎の拍手が沸き起こる。


「転校生イベじゃん!燃える~!」


「よろしくね、音重さん!」


そんな中、伊佐波は不自然な程にフラットだった。


「伊佐波、音重のこと知ってたのか?」


僕の質問に、彼女は口を開かなかった。


ただ、先の挑戦状を指さし、笑みを浮かべるだけだった。


〈今夜開かれる、蒼霞高校アイドル部“リフレッシュの新メンバー”歓迎ライブにおいて、式典の鏡を頂きに参上する  怪盗ベイル〉


なっ――!?


「音重が、アイドルの新メンバー……!?」


この瞬間(とき)、僕の“オモテの顔”が崩れ始めた。



誤字・脱字報告受付けております!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。