↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

第11話 デートウィズ! 後編――オモテ


<AM10:28 クレープ屋前>


 私、音重みかんはずっと緊張していた。

今まで男子と買い物なんて、行ったことが無かったからだ。

男子と遊びに行くことは何度かあったが、いずれも男女3人以上でだった。でも水着を選ぶためとはいえこんな形で、しかも転入早々実現するとは思いもよらなかった。

 今並んでいるクレープ屋は人気で、朝だというのにそれなりに待たされた。


それにしても……霜凪くん、遅いなぁ……。

あと2人待ったら順番来ちゃうよ。


 ふと、これまで交わした彼との会話を思い返す。

おにぎりから始まった出会い、Rサポート部員の彼との共同活動。


――霜凪くん、話しやすい人だな、と。


彼を誘ったのも、単に接する機会が多かっただけ。


この気持ちは、ただの友情だ。


 もし、今日のデートが彼ではなく怪盗ベイルだったのなら、また違った感情になったのかもしれない。しかし、ベイルはRサポート部の中にはいなかった。


――ベイル、どうしてるんだろ


 そんなことを考えているうち、遂に私の番が来てしまった。


「みかんと、チョコをそれぞれ1つ」

「はーい」



  ※         ※        ※



 クレープを両手に抱えながら、私は人混みを避けて待っていた。


「もう……霜凪くん遅すぎ。女の子を待たせる男はモテないぞって言ってやりたい!」


そんなことを呟いていた。その時、人影が近づいてくるのが見えた。


噂をすれば……。


「遅いよ、霜凪く――」



……しかし、人影は3人で、霜凪トウマの姿はどこにも無かった。


「え……?」


 鼻息を荒くした、無精ひげの男性と、その仲間の2人。


何の用だろう……? あまりいい雰囲気じゃない。


 すると、男性がねっとりと口を開く。


「リフレッシュのみかんちゃんだよね? もしかして彼氏待ち?」


3人ともモノを吟味するかのような嫌な目で、私を嘗めるように見つめてくる。


「そっ、そういうわけじゃあ……。わ、私もう行かないと」


この人たちと話すのは良くない。そこからの判断は早く、私は彼らを避けて人混みの方へ抜けようとした。


 しかしそのとき、3人のうち一人が急に私の進路をその身で阻んできた。


「きゃっ……!」


「おいおい、俺の服にシミがついたじゃね~かっ!」


 何ということだろう……持っていたクレープのチョコシロップが、ぶつかった拍子に付いてしまったのだ。


「ごっ、ごめんなさい……!」


私は必死に頭を下げる。しかし、男たちは私の腕を掴んで裏路地に連れ込んでいった。


「ごめんで済めば警察はいらないんだよっ」


「いやっ、やめてっ……!」


私の力では振りほどくことが出来ない。

「おい、お前はコイツの荷物を漁れ」

「えー、それって……」


 男たちは背筋の凍るような、醜悪な笑みを浮かべる。


「そうそう……みかんちゃんには……」


「いや……」


「「おじさんたちに罪を償ってもらおうかっ」」



 ――そこからは地獄だった。



 馬乗りになり、全身を嘗めるように触り、握りながら鼻息を吹きかける。


「……っ」


「おっと誰か呼ぼうとしたら、はずかし~い写真、アップしちゃうよ?」

「さあっ、おじさんたちを満足させ――」


 そしてカサカサの唇を押し付けようとした――


何で……何でこうなったの……?


私がアイドルの意識を持ってなかったから……?


悪い人たちがいることに、鈍感だったから……?


いやっ……!!皆に迷惑かけちゃう……!リフレッシュを、私のせいでッ――!


 藻掻いても、ビクともしない……。


ああ、誰か……。



霜凪くん……ベイ、ル――


――


 「あん……? 何だこの黒いモンは。つーか光って……?」


 漁っていた男が身に覚えのない物体を取り出すのが見えた。


「え……」


 唇が触れる――その寸前。


黒い物体から、何かが流れ始めた。


『全くもって醜悪だな、貴様らは……。 自分のちっぽけな欲求の為に他者を辱め、その涙を啜る下衆め』



「はっ……!? 何でっ、この声……!!」


男は驚きと恐怖でそれを投げ捨てた。そして、私の元に転がった。


『……その罪深き魂、全力で贖うがいい』


その言葉を最後に、それは機能を停止した。


 男たちは困惑と焦燥感で唇をひっこめた。

他が冷や汗を垂らす中、私は“違う”涙を流していた。


この声、ガビガビなのに……聞き覚えがあるっ……!

あるっ……!初めてのライブで聞いたあの声と、彼の声に……!


 「はーい、お疲れ様。君たちの一部始終、頂いたよ」

その時、裏路地の陰から足音と共に響く男の声。


「その罪を、贖う時だ」


 私たちの前に現れた人――


スマホの録画を見せながら飄々と視線を送る、茶髪の男子高校生。


ううん……っ。


「しも……なぎ、くん……」


 私を掴んでいた男たちは乱暴に手を離し、恐怖で青ざめた顔になっていく。


「て、てめええっ……!!とっ盗撮だ!」

「みっ、みかんちゃんの恥ずかしい写真を拡散するぞっ!オラ――」


焦った男が投稿ボタンを押そうとした。


……が、その手にスマホの姿はなかった。


「脅し道具として温めてくれてどうも」


「あっ……!! か、かえせ――」


キレた男は霜凪くんに殴りにかかった。


「……!! ダメッ――」


 私は思わず目を逸らしてしまった。しかしその間、信じられないことが起こっていた。


その男が、二の足を踏んでいたのだ。


「……ちびんなよ、オッサン」


霜凪くんとは思えない、冷徹な上目遣い。

影がそれをより深めていた。


「あ……!ああああッッ!」


「次」

残りの二人に鋭すぎる眼光を向ける。


「ひっ――」

「……刑事さん、お願いします」


 落ち着いた声に戻る。その言葉と同時に、パトカーの光が裏路地を赤く照らし、複数の警官が瞬く間に3人組を取り押さえた。


――


 震えて縮こまる私に、彼がそっと上着を掛けた。

そして、私の顔を見て優しくこう言った。


「遅くなってごめん。もう大丈夫だよ、音重」


「霜凪……くんっ」


私は涙が止まらなかった。

彼をベイルと重ねるほどに――。



  ※        ※        ※



<AM13:14 渋谷新警察署 待合室>


 数々の処理が終わった後、私は部の顧問に迎えに来てもらうことになり、霜凪くんと並んで座っていた。

両親は、二人とも腰痛持ちで中々遠出できない事情もあり、警察の人もそれを踏まえた措置を講じてくれた。


「荷物も、ありがとね。綺麗にしてくれて。 ……あの黒いのも、霜凪くんの?」


「ああ。万が一の為だよ。GPS付小型トランシーバー、役に立ってよかったよ」


霜凪くんの穏やかな言葉に、私は再び感情が込み上げてくる。


「私っ……怖かったっ……! もう私、歌え――」

「音重、聞いて」


震える私の肩を、彼の手が抑えた。


「君は歌える。僕も、リフレッシュも、Rサポート部、スプリガンドのみんなも、怪盗ベイルもそう思ってる。僕たちが、いや僕だけになっても君を守るから」


これまで見せたことのない、熱い彼の姿勢。


ああ……。


私は救われたんだ、今度も彼に。


「あり、がとうっ――」 


そこで、張りつめていた私は意識を失った――。


「本当、頑張ったな。強い人だよ、君は……」


 ――“トウマ”に抱きかかえられながら、迎えが来るまで眠り続けていた。






次回は12日(月)18時頃投稿予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。