第12話 新横浜ライブ 怪盗ベイルVS姫矢ツルギ――ウラ
<E.P 0012 5月10日 AM6:30 小型バス内>
音重みかんが被害にあったあの事件から、はや1か月が経った。その間に起きた変化を挙げるとキリがないが、大きく分けて2つある。
一つは、リフレッシュの護衛部隊“スプリガンド”の大幅な再編成。これまではツルギ、アサヒ先輩、シンジ先輩の3人に加えて、ライブの都度人員を確保していたのだが、事件後は常に有力組織お抱えボディーガードが、スプリガンドメンバー3人のペアとして派遣されるようになった。
これは実に厄介だった。連携した有力組織は複数あるのだが、どこも一つ以上グランドレガシーを所有している。不可解なのは日本支部の肩書を持った組織、つまり海外からも何かしら注目しているという点だ。
2度目のグランドレガシーコラボライブ、やたらリフレッシュにご執心の組織の幹部……。ここまで揃えば、誰でも分かるだろう。
リフレッシュの存在が、グランドレガシー (※以後GLと省略する)起動の鍵ということ。
今も僕の後ろの席で腕を組んでいるお抱え3人組。
素性もクサいし、どうにか処理したいものだが……。
もう一つは、僕の実力が露見した事……と言いたいところだが、現場にいた人たち (ほとんどが警察関係者)に口止めをお願いして、オモテの僕に注目が集まることは無かった。
じゃあ、変化は何なんだよって話だが、それは彼女との会話で……。
「あれれ~? また難しい顔してる。 もしかして不安なの、トウマ~?」
「別に、いつものことさ。音重」
「あ~っ、また音重って言った! ひと月経つのに変わらないね」
「い、今はサポート部としての霜凪トウマだから」
……お分かりいただけただろうか。
事件後、その真相を知っている音重と、距離が縮まったことだ。
これまで、彼女は他者を苗字呼びするのが基本だった。だが、今は僕をトウマと呼び、彼女をみかんと呼ぶことを催促している。
その上、共に昼休みを過ごすことも増えつつある。
オモテの平穏が崩れると最初は思っていた。しかし、嫌な気はしなかった。むしろ高揚している自分がいることを理解した程だ。
「今日のライブにまたベイルが現れるから、警戒しなきゃいけないだろ? ダークヒーローみたいな扱いを受けてるけど、万が一ということもある」
自分で言ってて呆れるな。
理屈っぽい嘘を吐くのも、慣れ過ぎてしまっていた。
もう、本当のことを言えなくなるんじゃ……?
「ふ~ん、言い訳っぽいけどまあいっか」
「い、言い訳……」
「言い訳にしては悪くないと思うぞ、霜凪」
隣でサンドイッチを食べていた姫矢ツルギが、不器用な笑みを向けてきた。
何だコイツ、フォローのつもりか?
ああ、そうだ。言い忘れてたけど、コイツはここのところ穏やかに接するようになったんだ。Rサポート部のみんなにひとまずは謝罪し、仲間という認識に改めたようだ。
「ま、まあな。君、何かいいことでもあったか?」
「……! 鋭いな、お前。最近、姉がよく笑うようになった。名前の通りのどかな子と仲良くなれたらしい」
「意外だな。プライベートを語るなんて」
……ん? のどか……、そういえば和花の隣のベッドって確か……。
あ、姫矢――。う~ん、またまた面倒なことになったぞ、これ。
そんな時、リフレッシュのリーダー・伊佐波カリンの声が皆を静かにした。
「みんな、今日のライブは今までで一番大きな会場でやるのよ。和むのもいいけど、気を引き締めることも忘れずに」
おお、凛とした雰囲気にぴったりのセリフじゃないか。
「それにしても……ベイル様の挑戦状、今日も素敵……」
……ぶ、ぶち壊しだ。一応、本人が乗ってるんだぞ? なんて、口が裂けても言えないが。
僕が少し呆れていると、誰かが足を小突いた。
……ツルギか。
どうせここでは言えない事でも伝えたいのだろう。僕が目くばせすると、ヤツは何故か“気張る”ジェスチャーをして見せた。
……ええっ
余りの拍子抜けに舌を噛みそうになる。
いやツルギ、2回も気張んなくていいよ。
……どうやら、途中のトイレ休憩で話したいという事らしい。ぶっちゃけ内容よりも、他のメンバーよりも僕を選んだ理由が気になる。
仕方ない……こちらも乗らねば、なんとやらだ。
僕は犬の小便ポーズと返すのだった。
※ ※ ※
< PM18:15 横浜νアリーナ トラス 上 >
――盛り上がるステージの上空に広がる、影の戦場。
その闇を切り裂く赫き閃光が、“俺”に牙を向く。
「覇紋鬼刃――」
その踏み込みは、俺との距離20メートルの空間を瞬きの間に消し飛ばした。
速い――ッ!!
瞬時に右のつま先に力を込め、全力の回避を――
「――染裂きッァ!!!」
ほぼ同時に、空気が発火せんほどの強烈な横薙ぎが繰り出された。
「ッ……!!」
「……やるな、コソ泥」
男は繰り出した自らの刃を一目見て呟いた。
その白銀の刀身は、一切の穢れなく男の顔を映し出していた。
「フッ……コソ泥は心外だな」
俺の蒼い衣服は横一文字に斬り裂かれ、へその緒が覗いていた。
男は赤と白のツートンコートを翻し、睨みを効かせる。
「ウチの生徒じゃなくて幸いだった……」
再び、姿勢を低く構える。
「ほう……? それはつまり――」
「力づくで、貴様の顔を暴けるんでなぁッ!!」
そのまま赫き閃光が俺の死角に溶け込んだ……!
馬鹿な……再び俺を追い詰めるのかッ……!!
俺は蒼き闇の如く上にかっ跳び、狙いを定める。
「覚悟はできているだろうなッ、姫矢ツルギッ!!」
「俺に覚悟を問うなああッ、怪盗ベイルッ!!!」
何故このようなことになったのか……
それは次回語ろう。
次回からは休日の夕方に定期更新していく予定です。




