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刑事アズキ 第九話。

川崎市、幸区の高級マンション。

ベランダから多摩川を見下ろす六十代後半の白髪の男性。

男性はベランダからリビングへ戻ると、黒いチェスターフィールドのソファに腰を下ろした。


「そうか、お前が新総監になるとは。死んだ母さんも喜んでいるだろう。」


男性は壁に飾られた女性の写真を愛おしそうに見つめた。


「何もかも、父さんと母さんのおかげだよ。」


黒沢は微笑むと父、幹雄に感謝の言葉を述べた。


「俺のような制服警官から、新総監の息子が生まれるなんて想像もしなかった。実に誇らしく思う、俊。」


幹雄は感慨深げに息子、俊を見つめた。




警視庁、組織犯罪課。

黒沢を組織犯罪課の刑事達が祝福する。


「黒沢課長、新総監就任おめでとうございます!!」


組織犯罪課の刑事達の祝福に黒沢は笑顔で答えた。


「ありがとう、君たち優秀な部下のおかげだよ。」


黒沢はそう言い残し、組織犯罪課を後にすると、一人廊下を歩いた。

一人廊下を歩く、黒沢の前方から田村が歩いてきた。 


「黒沢、新総監就任おめでとう。ところで、これからタバコか?お前もタバコは止められないんだな。」


「ありがとう、田村課長。」


タバコをくわえる仕草をする田村に感謝の言葉を述べると、黒沢は一人喫煙所のある地下駐車場へ向かった。




警視庁、地下駐車場、喫煙所。

上質なミッドナイトブルーのスーツを着た黒沢が、一人喫煙所で立っていた。

そこに、黒沢の後ろからコートを着た中島が現れ声をかけた。


「おめでとうございます、黒沢課長。いや、黒沢新総監。」


黒沢が振り返り、中島を見て答えた。


「君は特殊能力課の中島君だったかな。恋人の早川君は残念だった。ところで、今の仕事は確か……。」


中島がコートのポケットに手を突っ込み答えた。


「ええ、今はフリージャーナリストやってます。そこで、面白い話を聞きましてね。」


淡々と、低い声で黒沢が尋ねた。


「ほう、どんな面白い話かな?」


中島が黒沢に話し始めた。




————「ある男の話です。」


「四十年ほど昔、川崎に白龍会系の暴力団がありまして。」


「幹部の男が、東龍会との抗争で死んだんですわ。」


「その男には、妻と幼い子供がいましてね。」


「妻は男の死後、川崎の日本人警官と再婚したらしいんですわ。」


「その妻の子なんですが、名を≪姜俊カン・ジュン≫と言いまして……。」————




黒沢の顔が険しくなり、中島を鋭い眼で見た。

中島は語気を強め、黒沢に話しかけた。


「何を考えてはるんですか、黒沢新総監。いや……白龍会系暴力団トップ、≪姜俊カン・ジュン≫さん!!」


「フッ……何のことかと思えば……。」


黒沢は額に手を当てると笑いだした。

そして、胸のポケットからタバコを取り出し火をつけた。

火のついたタバコを口にくわえると、煙を吐き出し、低く静かな声で中島を見つめた。


「なるほど、実に面白い話だ。ところで、ここは禁煙だったかな?タバコのこと忘れてくれるかい?」


中島は唖然とした表情で、タバコをくわえる黒沢を見つめた。

黒沢の吐き出したタバコの白い煙が中島を包み込む。


「俺はいったい何を……。」


直前の記憶を忘れ、中島は額に手を当てた。


「フフ、忘れたのかい?君の恋人の仇討ちの話だよ。約束は守ってみせるさ。」


その場に中島を一人置いて立ち去る黒沢新総監。

カツ、カツ、カツ————

黒沢の漆黒に輝く≪ジョン・ロブ≫の靴音だけが地下駐車場に響いた————


刑事アズキ。 第九話。 終わり。

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