刑事アズキ 第十話。
東京、千代田区。
内堀通りを白いバイクに先導され、黒塗りの≪レクサスLS≫が走る。
≪レクサスLS≫が警視庁の正門に到着すると、後部座席から総監となる黒沢が堂々と姿を現した。
玄関前では職員が敬礼をし黒沢を迎え入れた。
黒沢は軽く右手を上げると、敬礼をする職員の間をゆっくり歩いて行った。
チャコールグレーのスリーピースのスーツを着た城島副総監が敬礼をしていた右手を伸ばし、黒沢を祝福する。
「よろしくお願いします、黒沢総監。戦後初、課長からの異例の大出世ですね。」
「ありがとう。城島副総監、よろしく頼む。」
黒沢は礼を言うと、城島副総監とガッチリ握手した。
警視庁、講堂。
黒沢はスポットライトを浴び、数百人の職員の前、日の丸をバックに壇上で演説していた。
「まず、家族に感謝したい。ここまでこれたのは制服警官だった父のおかげ。」
黒沢は壇上から組織犯罪課の刑事達を見ながら力説した。
「そして、今後も東龍会への取り締まりを強化していく。」
アズキ達、特殊能力課の面々を見つける黒沢。
すると、黒沢は不敵に笑うと話し始めた。
「また、殉職者の出た特殊能力課を明日にでも解体する。これは、記憶を失った友人との約束でもある。」
ショックを受け、アズキは唖然とした表情をした。
「解体?そんな……。」
石田は語気を強め田村に詰め寄った。
「いいんですか?田村課長!!」
田村は淡々としながらも、怒りを含んだ口調で石田に答えた。
「組織の決定だ、従え石田!!」
石田は両手を広げ、納得いかない表情で田村を見た。
田村の苦悶に満ちた表情を見ると、石田は黙って首を横に振りうつむいた。
壇上で演説する黒沢が右手の拳を強く握り締め、力強く宣言する。
「最後に皆さん、共に≪新しい日本≫を作っていきましょう!! 」
日の丸をバックに黒沢の演説が終わった。
パチパチパチ!!警視庁の講堂が割れんばかりの拍手で包まれた。
就任演説後、警視庁の廊下で黒沢とすれ違う特殊能力課の面々。
「やぁ、田村課長。例の事件だが組織犯罪課で扱うことにしたよ。」
黒沢が田村に冷ややかな表情で伝えた。
「明日までは、うちの管轄だ!!」
田村は怒りに満ちた口調で黒沢に言い返した。
「まぁ、せいぜい頑張りたまえ。」
余裕の笑みを浮かべ、黒沢が立ち去ろうとした瞬間だった————
黒沢のタバコの残り香がアズキの嗅覚を刺激する。
夏の湿った埃の匂いがした。
「!!」
アズキの脳裏に次々と流れ込む記憶。
————(アブラゼミ……。)
(蒸し暑い倉庫。)
(止めろ!!撃つな!!と叫ぶ刑事。)
(航空機のエンジン音……。)
(銃を構える黒沢。)
(ならば死ね!!)————
アズキは驚いた表情をし、天井の照明を見つめると小声で呟いた。
「ああ……そんな。黒沢総監が……。」
アズキの顔から生気が失われてゆく。
アズキは言葉を失い、体を小刻みに震わせると、ショックでその場に立ち尽くした。
特殊能力課解体まで、あと一日————
刑事アズキ。 第十話。 終わり。




