刑事アズキ 第七話。
深夜の東京、赤坂。
高級な飲み物が並ぶラウンジ、ウキヨ。
薄暗いライトの下、ワインレッドのラグジュアリーソファで、キャストの女性と≪マッカラン12年≫を飲みながら談笑するスキンヘッドの男。
「いいじゃあねぇか、減るもんじゃねぇし。」
「嫌ですよ~。佐伯さんのエッチ~。」
佐伯がキャストの若い女性の腰に手を回し口説いている。
ラウンジのドアが開くと中島が入ってきた。
アズキと石田が中島の後に続く。
「相変わらず下品やな、佐伯。」
中島がそう言うと、佐伯は中島を睨みつけた。
≪マッカラン12年≫の入った≪バカラのグラス≫を黒い大理石のローテーブルに置くと、右手で首の付け根を掻いた。
ノーネクタイのダークグレーのジャケットの襟から牡丹の入れ墨が覗いた。
「ちょっと、お前に紹介したい子がおってな。」
中島がチラリとアズキを見た。
すると、アズキと石田が佐伯に近づいた。
「警察だ、ちょっと匂いを嗅がせて貰うよ。アズキ、頼めるか?」
石田が警察手帳を見せると、アズキが佐伯の匂いを嗅ぎ始めた。
佐伯は怪訝な顔でアズキを見た。
マッカランのダークチョコのような香りと、薔薇の蜜を思わせる甘いハニーの香り————
アズキは記憶の海へとダイブした。
————「西の白龍会の人間だな。」
「キャストにシャブ売ってるらしいな。」
「来てもらおう。」
「首都高の下。」
「男性に金属バット……。」
「首に牡丹の入れ墨。」
「後は任せた。」
「金属バットは河川敷へ。」————
アズキがビジョンを語り終えると、中島が佐伯に聞いた。
「ちゃうか、佐伯?」
「証拠はあるんだな、中島。」
佐伯が中島を睨みながら聞いた。
「なら、佐伯さん。河川敷に行こうか?」
石田がそう言うと、佐伯は右手に≪マッカラン12年≫を持ち飲み干した。
カランとグラスの氷が揺れる音がした。
再び、六郷土手の河川敷。
アズキ、石田、中島、佐伯の姿が見える。
枯れたアシの間から、鑑識らしき男が石田に手を振る。
「石田さん、凶器らしきバットを見つけました。」
石田が佐伯を見ながら、ネットリとした喋り方で問い詰めた。
「どうする?あのバットにはあんたの指紋がべったり付いてるんじゃないの?」
「西の白龍会の連中が、東のうちのキャストにシャブなんて売りやがるから……。」
佐伯は下を向き呟いた。
「橘、あのFランのガキ……。」
悔しそうに唇を噛む佐伯。
二月三日。犯人逮捕。
雨が上がった河川敷、空には虹————
佐伯を移送するパトカーを見送る三人。
中島が左手を上げ、アズキと石田に言った。
「俺は用事があるんで、ここで。」
「ありがとうございました。」
アズキが中島に頭を下げ感謝した。
中島を見送る二人。
アズキと顔を見合わせた石田が言う。
「アズキ、俺たちも行くか。」
「石田さん。これで、本部長も安心ですね。」
アズキは両手を頭の上に上げ、うーんと背伸びをし、石田を見て言った。
石田が笑いながら答えた。
「本部長ねぇ……。あいつ、今頃、くしゃみでもしてんじゃねぇか?」
「そんな、漫画みたいな。」
アズキが口に手を当て、笑いながら石田に言った。
アズキと石田は少し歩くと車に乗り、六郷土手の河川敷を後にした。
神奈川県警、本部長室。
「へっくしょん!!誰だ、私の噂をしてるのは?」
小野寺本部長のくしゃみが本部長室に鳴り響いた。
刑事アズキ。 第七話。 終わり。




