刑事アズキ 第六話。
冬の東京、大田区にパラパラと小雨が降り始めた。
どんより曇った灰色の空の下、シルバーのクラウンが多摩川沿いの道路を走る。
車を運転する田村が、後部座席に座るアズキと石田に説明を始めた。
「右が川崎市、幸区。そして、ここが大田区、六郷土手。我々、警視庁の管轄だ。」
白黒のパトカーが見えると田村は車を止めた。
クラウンのドアを開け、白い息を吐きながら河川敷へと歩いてゆく田村。
その後をアズキと石田が追うように歩いた。
黄色い規制線の側でネイビーのマウンテンパーカーを着た男が立っている。
安物のビニール傘を差し、ボサボサの頭を掻く男。
男は田村に気づくと、関西弁で話しかけてきた。
「お久しぶりですね、田村課長。」
「まさか、中島。君から直接、電話がくるとはな……。今はフリージャーナリストだと聞いたが。」
田村が中島の隣に立つと、ビニール傘を差す中島に聞いた。
「で、中島分かっていることは?」
中島は顎で血まみれの遺体を指し示した。
「遺体は最近、覚醒剤を中心に勢力を伸ばしてるアジア系暴力団、白龍会の男です。」
「東龍会が弱体化したと思えば、今度は白龍会か……。」
中島の話を聞き田村はポツリと呟いた。
中島が遺体の傍でしゃがみ込むアズキを見ると、皮肉を込め、怒気を強めると田村を問いただした。
「そのセミロングの子が、課長の新しいおもちゃっていう訳ですか?」
田村は顔をゆがめると、中島と目を合わせ向き合った。
雨脚が強くなり始めた。
「中島、早川は殉職だ。」
雨がビニール傘を叩く音が大きくなる中、中島はかつての上司、田村の目をじっと見つめた。
田村は中島から逃げるように目を逸らし、無言でうつむいた。
二人を青い稲光が照らすと雷鳴が轟いた。
田村は横目でアズキを見ると、重い口を静かに開いた。
「すまなかった。あの子は死なせない……約束する。」
血まみれの遺体に雨が降り注ぐ。
傘を差し、遺体の傍にいるアズキを見守る石田。
「アズキ、潜れるか?」
「はい、潜ってみます。」
ふぅと息を吸うと、アズキは遺体に鼻を近づけた。
濡れた土が発するペトリコールと、遺体が発する鉄の匂いが混ざり合う————
アズキは記憶の海へダイブした。
————「赤坂のラウンジ。」
「東龍会傘下の……。」
「上から車の音。」
「首に牡丹の入れ墨。」————
アズキがグラッとふらついた。
石田が傘を捨て、アズキを後ろから両手で抱きかかえた。
「アズキ、これ以上潜るな!!」
石田がアズキを心配する。
二人を見ていた田村が言った。
「もういい……。後は俺が何とかする。」
そう言うと、再び田村はうつむいた。
そのやり取りを黙って見ていた中島が、アズキと石田を見ながら言った。
「首に牡丹なら、心当たりがある。」
アズキと石田は振り返り中島を見つめた。
降りしきる雨の中、ガタゴトと京浜急行の赤い列車が走り抜けていった。
刑事アズキ。 第六話。 終わり。




