刑事アズキ 第五話。
横浜市、戸塚区。
バタンと扉を開ける音がした。
石田は一人、部屋の灯りを点けた。
キャメルのトレンチコートを脱ぎ、ダークグレーのソファベッドに無造作に投げ捨てるとキッチンへと向かった。
すると、ガサガサとコンビニの袋から≪チキン南蛮≫を取り出し、レンジで温めるとソファベッドに腰掛けた。
石田は木製のローテーブルに≪チキン南蛮≫を置くと、ニヤけながらコンビニの袋から≪黒ラベル≫を取り出した。
プシュ!!と勢い良く≪黒ラベル≫を開ける音がした。
石田は開けた≪黒ラベル≫をグビグビと喉に流し込むと、プハーッと息を吐き出した。
石田はパキパキと首を鳴らし、タバコに火をつけるとテレビを点けた。
「おっ、代表戦やってるじゃねぇか。」
一人≪黒ラベル≫を飲みながら食い入るようにサッカーを見る石田。
数時間後————
グーグーとイビキをかき、彼は気持ちよさそうに眠っていた。
トゥルル。トゥルル。
石田がうっすら目を開けスマホを手に取ると、怒り気味のアズキの声が聞こえた。
「もしもし、石田さん?アズキです。」
「どうしたアズキ?」
スマホの向こうで、アズキが答えた。
「石田さん、このままなら遅刻です。今、マンションの前でタクシーを待たせてますから支度して下さい。」
石田は壁の時計を見ると慌てて支度を始めた
アズキと石田の二人は、警視庁の地下駐車場でタクシーを降りた。
入り口では、二人を待つ特殊能力課の田村の姿があった。
二人を見つけると、田村がゆっくり石田に近づき握手を求めた。
田村は石田の手をがっしりと握りしめた。
「警視庁特殊能力課、課長の田村だ。よろしく頼む。」
続けて、アズキとも握手しようとする田村。
アズキはネイビーのロングコートの右手を伸ばした。
すると、どこからかタバコの匂いがした。
「!!」
アズキはタバコの匂いを嗅ぎ何かに気づいた。
その時、アズキの後ろから五十代のオールバックの刑事が現れる。
上質な黒のロングチェスターコートを着た刑事が、アズキに優しく微笑み、話しかけた。
「ここは禁煙だったかな?もしそうならタバコのことは忘れてくれるかい?」
「えっ、あっ、はい……。」
オールバックの刑事を見ると、アズキは立ち尽くした。
アズキに続き、田村に話かけるオールバックの刑事。
「ところで、田村課長。例の事件は解決しましたか?大変なら、うちが引き取りますよ。」
田村が強い口調でオールバックの刑事に答えた。
「悪いが、例の件はうちの管轄だ。」
オールバックの刑事はニヒルに笑うと、カツカツと≪ジョン・ロブ≫の靴音を鳴らしその場を立ち去った。
警視庁の灰色の廊下をアズキ、石田、田村の三人が特殊能力課に向かって歩いていた。
「なんだぁ、あのオールバックのムカつく野郎は。」
警視庁内の廊下を歩きながら、悪態をつく石田に田村が答えた。
「彼なら組織犯罪課の黒沢課長だよ。関東一円を支配する東龍会を、あと一歩まで追い詰めることに成功したエリートさ。」
「東龍会って、あの関東最大の?」
石田は驚きの表情を浮かべた。
驚く石田に田村が答える。
「ああ、次期総監候補と期待されている男だよ。」
「総監ねぇ……。」
石田は気に食わねぇと言いたげな表情をすると、田村の後を歩いた。
警視庁、特殊能力課に三人が着くと電話が鳴った。
トゥルル。
「はい、こちら特殊能力課。あっ、はい……。」
事務員が田村を見つめた。
「田村課長、お電話が……。」
事務員から電話を代わると、田村は眉をひそめ話し込んだ。
電話を切り、田村がアズキと石田をじっと見た。
「さっそくだが、二人には仕事をしてもらう。河川敷に遺体だ。」
アズキはロングコートの襟を正し、石田と顔を合わせると頷いた。
河川敷には二人を待ち受ける血まみれの男性の遺体が横たわっていた————
刑事アズキ。 第五話。 終わり。




