刑事アズキ 第四話。
横浜市、旭区にある一ノ瀬家。
家族と一緒に朝食を食べるアズキ。
湯気の立つ味噌汁をすすると、父がアズキに話しかけた。
「アズキ、警察の仕事はどうだ?」
テーブルにスマホを置き、ユーチューブを見ながら焼き鮭をつまんでいた弟が、急に会話に割り込んできた。
「姉ちゃんなら、大丈夫だよ。」
「こら、海斗!!お前に聞いてるんじゃない。」
海斗を叱る父。
二人のやり取りを見てクスッとアズキが笑った。
「大変だけど、やりがいのある仕事だよ。」
父が真剣な表情でアズキを見る。
「無理はするなよ、アズキ。」
「うん、そうだね……。ありがとう。」
アズキは父に返事すると立ち上がり、チャコールグレーのチェスターコートを手に取った。
「行ってきます。」
コートを羽織ると玄関へ向かうアズキ。
神奈川県警、特殊能力課。
アズキが出勤すると、石田と若い刑事が椅子に座り話し合っていた。
「おはようございます。」
アズキが≪ロンシャン≫の黒いトートバッグを自身のデスクに置くと、石田がアズキを見上げ声をかけた。
「おはよう、アズキ。体調はどうだ?」
「大丈夫です。水泳部で鍛えましたから。」
アズキは右手でガッツポーズをすると、ニコリと笑った。
石田は立ち上がりアズキに頼んだ。
「なら、悪いがダイブしてくれないか?参考人を呼んである。」
アズキは頷くと、取り調べ室へと向かった。
神奈川県警、取り調べ室。
そこには、四十代の眼鏡をかけた冴えない中年男性がいた。
黒いマウンテンパーカーのポケットに手を突っ込み、貧乏揺すりをしている。
石田は男性に声をかけた。
「すまないね、佐々木さん。佐藤彩、この女性に見覚えは?」
佐々木は無言で下を向いた。
石田が別の写真を佐々木に見せる。
「なら、これは?夜桜れん、知ってるね。」
佐々木は写真を見ると、ダラダラと汗を噴き出し、動揺を隠せない。
すかさず、アズキが佐々木に近寄り匂いを嗅ぎ始めた。
乾いた雑巾のような匂いが、アズキの鼻を強烈に貫く————
アズキは思わず顔をしかめ咳き込んだ。
そして、佐々木から離れ深く息を吸い込むと、再び佐々木に近寄り灰色の記憶の海へ潜っていった。
————「XのDM。」
「お金貸して。」
「もう、金がない……。」
「四畳半の部屋。」
「ガイシャを見つめる参考人。」
「ナイフでガイシャを……。」
「そして、ナイフを河川敷に……。」————
アズキはビジョンを語り終わると佐々木を睨みつけた。
「佐々木さん、違いますか?私、鼻が利くんです!!」
「やれやれ。しかし、何でまた河川敷かね?河川敷はゴミ箱じゃねぇんだ。」
石田は両手を頭の後ろに回し、天井を見上げた。
その後、石田は佐々木を見ると諭すように話しかけた。
「話してくれるね、佐々木さん。」
すると、佐々木が眼鏡を外し、顔をくしゃくしゃにして、まるで子供のようにワッと泣き出した。
「あいつは、あいつは……俺の貯めた金でホストと遊んでやがったんだ……。」
一月三十一日、犯人逮捕。
数日後、神奈川県警の廊下を歩くアズキと石田。
「なぁ、アズキ。小野寺の野郎が俺達に用って何なんだ?」
「石田さん、小野寺の野郎じゃなく本部長、小野寺本部長です。」
二人が本部長室の前に立つと、石田が肩を落とし、ため息を漏らした。
「はぁ……。」
二人が本部長室のドアを開け中に入る。
「失礼します。小野寺本部長、ご用件とは?」
石田は恐る恐るデスクに座る小野寺に尋ねた。
小野寺は立ち上がり、窓の外を見ながら話し始めた。
「いきなりだが、一ノ瀬と石田には桜田門に行って貰う。」
「桜田門?まさか、警視庁に俺が……。」
驚く石田の右隣で、冷静に小野寺に質問するアズキ。
「警視庁に異動ということですか?」
振り返り、不機嫌そうに頷くと、小野寺は石田を険しい目で見た。
「うむ、くれぐれも私の顔を潰さないように、特に石田!!」
二人は本部長室を出て、再び神奈川県警の廊下を歩いた。
後頭部を掻きながら、やれやれといった表情の石田。
「小野寺本部長、辛辣でしたね。」
「やれやれ、なんて日だ。」
石田は疲れ切った表情で呟いた。
刑事アズキ。 第四話。 終わり。




