真のヒロイン、登場
「金がないだと!? 一体どんな英雄なんだお前は!!!!??? ブルルッ!」
ウマムスコがいななきながら怒鳴り声を上げた。
『ウマムスコ:好感度 -20』
周囲のプレイヤーやNPCたちが騒ぎを見守る中、穏やかな声が響いた。
「ホッホッホ、おやおや。ウマよ、そう怒るでない。この若者は騙されただけじゃろう?」
『NPC:サヴィオリン・オロバス』
声の主は年老いた男性だった。身長は190センチほどあり、豊かな白髭を蓄えている。先端が反り返った靴を履き、紺碧の生地に金の装飾が施された伝統的な魔術師のローブを身に纏っていた。年齢を示すような灰色の髪と髭。そして彼の帽子や杖には、7羽の小さな黄金の鳥が留まっている。
「気にするな、若き英雄よ。遠くから見ておったが、忠告が間に合わなかった。あやつらはゴロツキじゃよ」
(やべえ、何て言えばいいんだ!? 凄腕プレイヤー(プロ)がログイン直後に二度もカモにされるなんて!)
「よいよい。この町は初めてじゃな? 匂いでわかるぞ。お主、『狼と大鴉』の出じゃな?」
「あ、ああ、そうだけど……」
(待て、匂い? 確かにNPCなら嗅覚の設定があってもおかしくないけど……『狼と大鴉の出』ってどういうことだ? プレイヤー全員がここからスタートするわけじゃないのか?)と、ハジメは内心首を傾げた。
「次からは気をつけるんじゃぞ」
「サンキューな、じいさん……」
「言葉を慎め! このお方はこの酒場のマスター(オーナー)だぞ!」
ウマムスコが苛立ったように突っ込んだ。
(マジかよ……やらかした!)
ハジメは慌てて深く頭を下げた。
「す、すみません、マスター!」
「ホッホッホ、そう固くならずともよい。さあ、部屋を借りてゆっくり休むがいい……」
ハジメはサヴィオリンに礼を言い、受付のライカントロープの元へ向かった。
1泊の宿泊代は銅貨5枚。
銅貨10枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚というレートらしい。彼は金貨1枚を支払い、お釣りの銅貨5枚と部屋の鍵を受け取った。
部屋に上がり、ベッドに横たわる。
『チェックポイント(リスポーン地点)を更新しました』
(よし! これで死んでもここから復活できるな)
(今日はログアウトして寝よう。明日また探索だ)
ハジメはシステムを終了し、眠りについた。
――翌朝。
ハジメは目を覚まし、朝食をとるためにリビングへ降りた。
「それで、クマ目の旦那……面接はどうだったの?」
母親が目を閉じたまま、ナイフのように鋭い表情でコーヒーを注ぎながら尋ねてきた。
「ゲホッ、ゴホッ!」
ハジメはコーヒーを喉に詰まらせた。
「か、母さん! その……ダメだったよ」
ハジメはシュンとしてうつむいた。
「そもそも面接なんて行ってないんだから、当然でしょ?」
ハジメの背筋が凍りついた。
「VRギアを被ってると外が見えなくなるけど、こっちからはアンタが何してるか丸見えだってこと、忘れてないわよね?」
「ご、ごめんなさい母さん! 俺……俺……」
ハジメは震えながら立ち上がった。
「いいわよ。昔からアンタはそうだったしね」
母親はテーブルに一枚のパンフレットを置いた。
「アンタがやってるゲームって、この新しい有名なやつでしょ? 昔からゲームは得意だったじゃない。もしかしたら、これで稼げるかもしれないわよ」
「えっ?」
それは開発元であるトライアングル・オメガ社のパンフレットだった。そこにはこう書かれている。
『グラン・アストリクスの偉大なる開拓者、そして競技シーンの勝者――すなわちプロプレイヤーの皆様へ!
あなたのスキルが報酬に変わるチャンスです! クリップ動画、配信、またはこの広大な仮想世界でのユニークな実績から、収益を得ることが可能です』
「ええっ! マジで……?」
ハジメは目を丸くした。
「学生時代にメダルを獲ってたこと、覚えてるわ。いいかい息子よ、それが本当にアンタのやりたいことなら、お母さんは全力で応援するわ。でも! 絶対に結果を出すって約束しなさい!」
「母さん! 愛してるよ!」
ハジメは母親に抱きついた。これ以上ないほどの喜びに満ち溢れ、早くゲームを進めたくてうずうずしていた。
「わかったから、さっさとシャワー浴びてきなこの臭いガキ! 昨日帰ってきてからお風呂も入ってないでしょ!」
「はい、ママン! ごめんなさいっ!」
ハジメは叫びながら風呂場へと猛ダッシュした。




