嵐の吹き抜ける森で待ち受けるものとは
「ムハハハハハハハハッ!」
ハジメの耳に、いかにも魔王といった感じの笑い声が飛び込んできた。
「ムハハハハハハッ! ムハハハッ! ムハハ……」
場所は、黄金の嘴亭の厩舎。
「はあ……。で、お前がラスプーチンってわけか?」
(こいつがラスプーチンだって? もっとおっさんかと思ってたぞ)
『NPC:ラスプーチン』
そこにいたのは、まだ若い――ぶっちゃけ十代、十六歳くらいの少年だった。銀と黒が入り混じったスパイラル状のリーゼントヘアをキメ、ボロボロの赤いマフラーを巻いた派手な革ジャン姿。見た目は完全にヤンキー不良少年だが、その声はやけに野太くて低い。
「よくぞ聞いたな、そこらの平民! 我こそは闇のロード・ラスプーチン! お前にクエストを与えよう! 地獄から現れし魔獣どもを連れてくるのだ! 見返りはこの俺がたっぷりとくれてやる!」
『クエスト:有翼の悪魔たち ―「嵐の吹き抜ける森」からグリフォンのつがいを生け捕りにしてラスプーチンに持ち帰れ』
(おっ、記念すべき初クエストだな。いいじゃん)
「わかった。で、その『嵐の吹き抜ける森』ってどこにあるんだ? もし遠いなら、すぐ移動するためにマウント(乗り物)が欲しいんだが……だからここに来たんだし」
「お前の乗り物は、クエスト達成と共に用意される」
「いや、馬がたくさんいるのに、どれも購入もレンタルもできないのか?」
「できん」
「あ、そう……」
ハジメはガクリと肩を落とし、くるりと背中を向けて厩舎を出た。
酒場のフロアを歩き、出口に向かおうとしたその時、一人の男が目に入った。
ギザギザの鋭い歯を覗かせ、頑丈な鍛冶屋のエプロンと分厚いサロペットにブーツ、そして腕にぐるぐる包帯を巻いたタンクトップ姿の男。オレンジ色の長髪は激しく逆立ち、緑色の瞳には可愛らしいそばかすがあった。
『NPC:ロイ・シュミット』
(おっ、昨日の夜に言ってた鍛冶屋のおっさんか……いや、若いな。起こしてみるか?)
ハジメは、椅子にもたれかかって口をぽっかり開け、ヨダレを垂らしながら爆睡しているシュミットをじっと観察した。
彼は自分のテーブルにあった金属製のスプーンを手に取り、わざと床に落とした。
「おっと」
カランッ、と大きな音が響いたが、シュミットはびくともせず眠り続けている。
(この野郎……!)
イラッとしたハジメは、イスの足を思い切り蹴飛ばし、何食わぬ顔で素早く後ろに飛び退いた。
「うわっ!」
シュミットは椅子ごと派手に床へ転がり落ち、目を覚ました。頭を押さえて痛がる。
「痛てて……!」
ハジメはすかさず善人ぶった顔で駆け寄った。
「おいおい、大丈夫かよ相棒? いったい何があったんだ?」
「わかんねぇ、突然いすから転げ落ちてさ……」
ハジメは彼に手を差し伸べ、ひょいと引っ張り起こしてやった。
「助かったぜ! 俺の名前はロイ・シュミットだ」
「よろしくな! 俺はハジマックスだ!」
「おっ! お前もしかして英雄か? ちょうど探してたんだよ! なあ、俺はこの世で歴史のロマンが一番大好きな男でね。ちょっと頼みを聞いてくれないか?」
(クエストだ、百パーセント間違いなくクエストフラグだな!)
「もちろんいいぜ、なんで断る必要がある?」
「さっきも言った通り、俺は歴史が大好きなんだ。昔さ、『冒涜者ダルゴール』って名前の堕ちた一般がいてな。史上最強クラスの一人だったそいつは、4つの伝説の武器――『血の剣』『破滅の剣』『エネルギーの剣』『知識の剣』を持っていたんだ。
鍛冶屋にして歴史マニアの俺の夢は、その古代の四振りの刃を現代に復元することなのさ! でも、それにはまず『天空鉄』を取り戻さなくちゃならなくてね」
「天空鉄?」
「ああ! 人間以外の種族、俺の祖先であるハーデンフォードのドワーフたちが生み出した非自然的な金属さ!」
(お前の祖先だって? あんたどう見ても身長170センチの普通の人間だろ……)
「ま、まあ……見ての通りな!」シュミットはギザギザの歯を見せてニカッと笑い、ウインクした。
「……ええ、まあ、一目で分かりますよ」ハジメは冷や汗をかきながら相槌を打った。
「でだ! 俺の『天空鉄』の荷物が、あの『ユミルの猟犬』ってバイクのゴロツキ共にごっそり盗きちまったのさ! 連中が『嵐の吹き抜ける森』を通ったときに襲われたから、まだあの森のどこかにあるはずだ! お願いだ、取り返してきてくれ!」
『クエスト受領:メタルの泥棒たち ―ロイ・シュミットのために「天空鉄」の荷物を回収し、彼の鍛冶を助けよ』
(森に行くクエストがこれで二つ……おいおい、あの森はよっぽど重要なメインスポットらしいな)
「よし、任せとけロイ! このハジマックス様が、お前の最強の英雄になってやるぜ!」
ハジメは自信満々に自分の胸をドンと叩いた。




