この神々しい存在は何だ?
ハジメは出発前の念のため、再びリスポーン地点を更新しておこうとベッドに横たわった。
しかし今回は、セーブのために暗転した視界が、いつまで経っても明るくならなかった。
(あれ? バグか?)
すると突然、視界が真っ白に発光し、ハジメは空を見上げていた。
「なんだ? ベッドに寝たはずなのに……」
ハジメは立ち上がり、辺りを見回した。一歩踏み出すたびに、まるで水面を歩いているかのように足元の空間が波打つ。
「ここはどこだ!? 海の上か? それとも空か?」
『――契約の条件は満たされ、代価は支払われた。先へ進むがよい』
空間全体を震わせるような、神々しい声が響き渡った。
ハジメが振り返ると、巨大で荘厳な扉の上に座る「何か」の姿があった。その直後、巨大な扉がゆっくりと開き、ハジメの体が見えない力に引っ張られ始めた。
「ちょ、待てよ! ちゃんと説明しろって! うわああああああっ!」
扉の奥の暗闇へと吸い込まれた瞬間――ハジメは勢いよくベッドから跳ね起きた。
気がつくと、元の酒場の部屋に戻っていた。
「い、今のハ何だったんだ?」ハジメは息を弾ませながら呟いた。「よく分からんが……マジでヤバかったな。ストーリーモードの演出か、何かのイベントか?」
ハジメは設定ウィンドウを開き、ログアウトや言語変更のボタンと並ぶ『クリップ(録画保存)』のボタンを押した。直近30秒のプレイ映像が生成され、それを見直す。
映像を通して見ると、より詳細が確認できた。光のように輝く人型の体。目や口といった顔のパーツはない。頭には茨の冠と光輪を戴き、僧衣のようなものを羽織っていた。
「すげえな、めっちゃ威厳のあるデザインじゃん」
ハジメは設定メニューからゲーム内ブラウザを開き、SNSサイトにアクセスした。
彼のアカウント名は『ハジマックス』。プロフィール欄には格闘ゲームやMMORPGで獲得したトロフィー実績が並び、フォロワー数は2000人ほどいるゲーマー用アカウントだ。
『誰かこれが何か分かるやついる? #グランアストリクス #レクイエム』
【生成したクリップ動画を添付してポスト】
「さて、みんななんて言うかな」
ウィンドウを閉じ、彼は酒場の1階へと降りていった。出口の扉をくぐろうとしたその時、ライカンに声をかけられた。
「お待ちくだされ、英雄殿!」
「……ライカンだったよな? どうした?」
「ヴォルペ家のヴィンテージワインの積荷がまだ届かないのです。おそらく、『ユミルの猟犬』の仕業かと」
「マジかよ、またあいつらか?」
ハジメは呆れ気味に言った。
「ええ、雑草よりも厄介な連中です。昨年に先の偉大なる皇帝陛下が自然死なされてから、この国にはびこるようになったのです」
(ふーん……先の皇帝ね……)
(いや待てよ、それめちゃくちゃ怪しくないか? なんでNPCたちはそれに気づかないんだ?)
「で、今の皇帝は誰なんだ?」
「現在は御年11歳になるご子息、ユリアン・アストリクス・シリス・デ・パーシヴァル様が継がれております」
(うわ、名前長っ……)
「そ、そうか。皇帝陛下に栄光あれってな」
「ハハハ、英雄殿は面白いお方だ。どうでしょう、我々のためにワインの積荷を調査し、取り返してきてはいただけませんか?」
『クエスト受領:ワインを取り戻せ ―ライカンのためにワインの積荷を回収せよ』
「よしきたライカン! このプロゲーマー様にお任せあれ!」
ハジメは威勢よく言い放ち、ついに酒場を後にするのだった。




