最高の金属は何を鍛造するのか?
「すまないね、若者……中で君たちの会話を聞いてしまったんだ」
(クソっ、また会話イベントかよ! 俺は早くプレイしたいんだよ!)
ハジメは苛立ちながら振り返った。
そこにいたのは一人のハイエルフだった。身長は190センチほどで、尖った耳に明るい茶髪、そして同じ色の品のある顎髭を生やしている。詩人のようなエレガントな紺碧の衣装を纏い、肩には3つの稲妻が渦を巻く貴族の紋章が刻まれていた。
『NPC:ルートヴィヒ・アマデウス・ヴォルフガング』
「何の用だ?」ハジメは生返事を返した。
「ワインの積荷を探していると聞こえてね。私は大の詩人であり、無類のワイン愛好家でね」
ルートヴィヒは酒場の外の左右を警戒するように見回すと、ハジメの耳元へ顔を近づけて囁いた。
「私は裕福な貴族だが……悲しいかな、我がヴォルフガング家とヴォルペ家は宿敵同士でね。奴らは私にワインを売ってくれないのだ。そこでだ、君が回収するワインの一部を、私のために『借りて』きてはくれないだろうか?」
ルートヴィヒは手でカギかっこ(ダブルクォーテーション)のジェスチャーをしてみせた。
『クエスト:ワインを取り戻せ ―ライカンのためにワインの積荷を回収せよ』
『分岐(任意):ルートヴィヒのために極上のヴォルペ・ワインを数本「拝借」する』
(分岐クエスト!? へえ、ただの一本道じゃないんだな。ルートヴィヒの依頼を聞いたら本来の報酬が変わるかもしれないが……初見プレイだしやってみる価値はあるな!)
「いいぜルートヴィヒ! 任せとけ!」
ハジメは背を向け、決めポーズを取りながら意気揚々と歩き出した。
彼は町を歩きながら受領中のクエスト一覧を確認した。
【クエスト一覧】
ワインを取り戻せ(+分岐:ワインの拝借)
有翼の悪魔たち(「嵐の吹き抜ける森」からグリフォンのつがいを回収)
メタルの泥棒たち(ロイの「天空鉄」の荷物を回収)
(クエストが3つ……実質4つか。森に出かける前に、もう少しマシな装備を揃えておこう)
ハジメは町の一角にあるこぢんまりとした武器屋へ向かった。初期装備の刀を売り払い、手持ちの金貨と合わせて新しい武器を購入した。
『鋭利なる半月の太刀』
効果: 半月の夜、与えるダメージが上昇する。
(かなり限定的な効果だけど、今買える中ではこれが一番性能がいいな。よし、残りは金貨1枚と銅貨5枚か)
「最高の武器ってのはな、買うもんじゃなく鍛造するものだぜ」
「え?」
ハジメが振り返ると、そこに一人のプレイヤーが立っていた。頭上には『クラング!』と表示されている。
(おっ、こいつの名前にもビックリマークがついてるな)
そのドワーフのプレイヤーは、編み込まれた赤髪と立派な髭を持ち、頭の横にはタトゥーが入った北欧風モヒカンスタイルだった。重厚な革と毛皮の装備を身に纏っている。
「あ、悪いな! 独り言がデカすぎたか、ハハハ!」クラング!は豪快に笑った。「俺のオリジン(出自)クエストのセリフなんだよ」
「へえ、どんなクエストなんだ?」
「俺のクエストは極寒の峰にあるドワーフの首都『ハーデンフォード』に関連しててな。『神々を超える武器を鍛造する』のが目標なんだよ!」
「うわ、スケールでかいな!」
「だろ? ガハハ! まあまだレベル10のひよっこだけどな。ついさっきエクストラクラス(専門職)を解放したばかりだ」
「エクストラクラス? なんだそれ?」
「あれ、お前まだレベル10いってないのか? ええと……メインクラスは3つしかないだろ? レベル10になると自分の『職業』を選べるんだよ。現実に例えるなら、レベル1の段階では『医者』っていうベース職で、レベル10で『脳神経外科』とか『整形外科』みたいに専門分野を決める感じだな」
「なるほど!」ハジメは手をポンと叩いた。「お前は戦闘系か? 専門は何にしたんだ?」
「俺は『防具鍛冶師』だ」
「なあ、そのハーデンフォードに関連して聞きたいんだが……『天空鉄』って金属について知ってるか? それを回収するクエストを持ってるんだが」
「はあ!? 天空鉄だと!? あれはめちゃくちゃレアで超高額な金属だぞ! なんでお前みたいなレベルでそんなクエスト持ってるんだよ!?」
「鍛冶屋のNPCから受注したんだ」
「マジかよ……天空鉄ってのは最高の魔法武器を鍛えるための金属で、ミスリルやアダマンタイトと並ぶ【世界三大金属】の一つだぞ!」
「マジで? じゃあ序盤で手に入るようなもんじゃないわけか……」
『フレンド申請:クラング!』
『フレンドになりました!』
「なあハジマックス、良かったらしばらく一時パーティ組まないか?」




