スティール・ボール・ラン
ズシーン、ズシーンと重い蹄の音が街道に響き渡る。だが、それは馬の足音ではなかった。
「うわっ、すげえ! 最高だなこれ!」
ハジメは興奮気味に声を上げた。
彼とクラング!は、巨大なイノシシ(マウント)の背中に跨がっていた。未舗装の土道を猛スピードで駆け抜けていく。
二人は『狼と大鴉の町』を後にし、さらに北にある農耕都市『白い回廊』を目指していた。そこは鮮やかな色彩に満ちた、ヴォルペ家の支配地域であり、ワイン強奪事件の現場でもある。
「俺もあの『ユミルの猟犬』のクソ野郎どもに奪われた荷物を取り戻すクエストを持っててな! 二人より四人、腕が多い方が追剥ぎどもをぶちのめすには打ってつけだろ! ガハハ!」
クラング!が豪快に笑う。
「そいつは心強い――」
ハジメが言いかけたその時だった。
ブォン! ブォォォン! ブロロロロロッ!
「ちくしょう! また現れやがったか!」
突如、爆音と共に3台のバイクが姿を現した。
「ギャハハハ! 待てやコラ! 逃げたら余計に痛い目見せるぞーっ!」
狂気じみた高笑いを上げ、二人を煽ってくる『ユミルの猟犬』のならず者たち。人種差別とは無縁のようで、現れた3人はハーフオーク、ドラゴンボーン(竜人)、そしてエルフという異色のトリオだった。しかも、どこか訛りのある田舎者くさい喋り方をしている。
「おいトオ(Tião)、武器出せべ!」
「分かったべ、アニキ!」
ドラゴンボーンがハーフオークに威勢よく応えた……が。
「……アニキ、武器忘れたべ」
「この役に立たねぇクズが! なんで忘れるんだべかーっ!?」
コントのような罵り合いを始める二人。
「銃はないみたいだな! ならハンマーで叩き潰せるぜ! 俺の得意分野だ! おいハジマックス、走りながらの戦闘に備えろ!」
「なあクラング! こいつらの見た目、なんていうか……『マッドマックス』と『サイバーパンク』を足して2で割ったみたいじゃないか?」
「お前、ゲームのフレーバーテキスト読んでないのか?」クラング!が言った。「連中は別の大陸から来たんだよ。昔、隕石が落ちて壊滅した大陸でな。その隕石から生まれた『4つの超オーパーツ』を巡って暴走族が結成されたらしいぜ……まあ、詳しい話は後だ!」
クラング!はイノシシの手綱を切り、1台のバイクへと突撃させた。巨大な猪突猛進を受け、エルフの乗るバイクが吹き飛ぶ。エルフは悲鳴を上げながら転倒し、光るデータの粒子となって消滅(経験値化)した。
「弟よーっ!?」ハーフオークが叫ぶ。
残るドラゴンボーンとハーフオークの2台が、土煙を上げながら高速でイノシシの両脇を挟み込んだ。
ハーフオークは走行するバイクのステップの上に立ち上がり、鬼の金棒のような巨大な棍棒を振りかざしてハジメに襲いかかった。ハジメは間一髪で身をかがめてかわす。
「クラング! 運転に集中しろ、こいつは俺がやる!」
「おう、任せたぞ!」
クラング!が片手ハンマーを抜き、ドラゴンボーンの短剣と打ち合いながら激しい並走バトルを繰り広げる中、ハジメもハーフオークと対峙した。
ハジメは相手の重い攻撃を寸前で回避しながら、太刀で斬りつける。
(相手のHPゲージは見えないが、ダメージ表現がリアルだな……苦痛の表情や疲労がハッキリ分かる!)
ハーフオークが再び棍棒を振り下ろした瞬間、ハジメはイノシシの背からハーフオークのバイクのステップへと飛び移った!
片足でハンドルを力任せに捻り、バイクの軸をブレさせる。さらに迫る横薙ぎの攻撃をしゃがんでかわすと、すかさずすれ違いざまに太刀でオークの膝裏を鋭く切り裂いた!
「グアアッ!?」
膝を砕かれたハーフオークがバイクから転がり落ちる。ハジメは間髪入れずに足場を蹴り、クラング!のイノシシの背中へと跳び戻った。直後、無人となったバイクが派手に横転する。
「へへっ、まず1台撃破!」
「いいぞハジマックス! 俺のポケットから『アレ』を取り出せ!」
「おう!」
ハジメはしゃがみ込み、クラング!のポケットに手を突っ込んでズッシリと重い『純鉄の球』を取り出した。
「そいつでアオカビ(竜人)の頭をブチ抜いてやれ!」
「待っ……待ってくれぇぇ!」恐怖に顔を歪めるドラゴンボーン。
――ピッ!
ハジメはまるでプロ野球のピッチャーのような綺麗なフォームで、純鉄の球を力いっぱい投げつけた!
ドカッ!!
「グハッ!?」
顔面に直撃を受けたドラゴンボーンはバイクごとバランスを崩し、盛大にクラッシュしてデータの粒子へと弾け飛んだ。
『レベルアップ:Lv 3 ➔ Lv 4』
「よしっ! レベルアップだ!」
イノシシの上で立ち上がり、拳を掲げるハジメ。
「やるじゃねえか、ハハッ!」クラング!も嬉しそうに笑った。
ハジメは再びイノシシの背に腰を下ろし、二人は目標の地『白い回廊』を目指して街道を突き進んでいった。




