銃使いのゴブリン、ニビル
ハジメが砂浜を歩き続け、大きな岩の向こう側に海岸沿いの町を発見した。すると、メッセージがポップアップした。
『狼と大鴉の町へようこそ』
町にはNPCだけでなく、プレイヤーたちの姿もあった。プレイヤーの頭上には、それぞれのニックネームが浮かんでいる。
ハジメは一人のプレイヤーに声をかけた。そのプレイヤーは椅子に背を向けて座っており、頭上には『ニビル』という名前があった。
「すいません、ちょっと聞きたいん――うおっ!?」
ニビルが椅子から立ち上がった瞬間、ハジメは思わず後ずさった。
「なんだ? ゴブリンを見るのは初めてか?」
ニビルは大きな鼻と尖った耳を持ち、肌は緑色だった……どこからどう見ても正真正銘のゴブリンだ。彼は道化師のような服を着ていたが、腰のホルスターにはペッパーボックスピストル(多銃身の拳銃)を差し、背中にはマスケット銃を背負っていた。
「ゴブリンがプレイアブル種族だなんて知らなかったぞ。すげえな!」
「だろ?」ニビルはニヤリと笑った。「だが、メリットとデメリットがあるんだ。人間は長所もないが短所もない唯一の種族だ。俺たちゴブリンは敏捷性や回避率が高い代わりに、NPCから差別を受けるんだよ。ハハハ! だから一部の店には入れないんだ。で、新米、俺に何か用か?」
「セーブしたり、HPを回復したりするにはどうすればいい?」
「お前のストーリーモードは何だ?」
「ええと、ランダムだ」
「は? マジか……。まあ、それなら『黄金の嘴亭』って酒場に行くといい。あちこちにあるチェーン店みたいなもんだ。てか、お前なんでそんな格好なんだ? 初期装備はどうした?」
「あ、いや……その……難易度を上げるために売っちまったんだよ」
ハジメは気まずそうに視線を逸らした。
「さては、もう身ぐるみ剥がされたな!? ギャハハハハハハ!」
ニビルは地面を転げ回って大爆笑した。彼のアバターの横には『笑い』の絵文字がポコポコと浮かび上がっている。
「うるせえっ! ほんの1回だけだ、二度とこんなことにはならないからな!」
ハジメはムキになって怒った。彼のアバターの横にも『!!!』や『怒り』のエモートが表示される。
「悪ィ悪ィ。まあ見りゃ分かると思うが、俺はニビルだ。また今度一緒に遊びたかったらフレンド申請してくれ。俺はそろそろログアウトするからよ」
『フレンド申請:ニビル』
『承認しました!』
「よし、承認した。ありがとな。俺はとりあえず、このミリ残りのHPを回復してくるわ」
「そういや、『黄金の嘴亭』でセーブする以外にも、マジで山ほどクエストがあるぞ。まだリリース直後で攻略情報も少ないが、SNSじゃ『ホームレスの剣士』を助けておくといいって噂になってるぜ」
「ホームレスの剣士?」
「いつも酔っ払ってるか、釣りをしてるNPCだ。まあ、俺もさっき助けたばかりで何ももらってないがな。でも、どう見ても重要キャラっぽいんだよ」
「なんで剣士って呼ばれてるんだ?」
「背中に包帯でぐるぐる巻きにされた長い何かを背負ってて、腰には剣を差してるんだよ。強盗NPCに襲われても返り討ちにしてたし、あいつに決闘を挑んだプレイヤーは全員ボコボコにされてる」
「面白そうだな! 教えてくれてサンキュー」
「おう、じゃあな!」
ニビルがログアウトすると、彼のアバターは空中でデータの粒子となって消え去った。




