↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は今でもVRMMOで最強《アルティメット》プレイヤーのままだ!  作者: イブキ
奇妙な土地と大きなコロッセウム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/44

ゴブリンランドの闘技場(中編)

 バンバンは足を引きずりながら立ち上がり、怒りに身を震わせた。全身のトゲをぎらつかせたイノシシは、まだ主を乗せずにアリーナを暴れ回っている。

 一方、キメラは姿勢を低く落とし、三つの頭による連携攻撃の構えに入っていた。

 ハジメはアーマーの残弾数を確認した。

(ミサイル残弾:3発。スタミナはもう底を突く)

 彼はついに『ヒロイック・サージ』をアクティブにした。

 その瞬間、全身にのしかかっていた強烈な疲労感が嘘のように吹き飛び、身体が羽のように軽くなる。

(クールダウンタイムが馬鹿みたいに長いスキルだ。二度目のチャンスはない。ここで確実に終わらせる!)

 彼はゴブリンではなく、キメラに向かって一直線に駆け出した。

 メインの頭が灼熱の炎を吐き出す。ハジメはアーマーの移動速度ボーナスを活かし、鋭い爪の暴風をすれすれで躱しながら右側へと回り込んだ。

 側面からオオカミの頭が喰らいついてくる。ハジメは『鎖鎌くさりがま』の分銅側をその大きく開いた顎の奥底へねじ込み、力任せに引っ張ってオオカミの首を強引に逸らせた。

 その流れるような動作のまま、残る3発のミサイルを全弾発射する。

 2発はライオンの頭へ。

 残る1発はヤギの頭へ。

 凄まじい爆発が至近距離で巻き起こり、巨体のキメラが大きくよろめいた。

 ハジメはアーマーの跳躍力+20%のボーナスを使い、よろめくキメラの背中へと一気に飛び乗った。『三日月のクレセント・ソード』を両手で構え、肩甲骨の結合部を狙って三度連続で斬り下ろす。

 キメラのHPバーが滝のように急激に減少していく。

(やっぱりな。こいつの弱点は、異なる肉体が結合している背中の継ぎ目だ)

 キメラが背中のハジメを振り落とそうと激しく身をよじる。ハジメは分厚いたてがみを片手で力強く掴んで身体を固定し、休むことなく斬撃を叩き込み続けた。

 そこへバンバンがハンマーを振りかざして接近してくる。ハジメは鋭い視線をゴブリンに向け、大声で怒鳴りつけた。

「お前は後回しだ!」

 そして、ハジメは渾身の力を込めた最後の一撃をキメラの急所へ深々と突き立てた。怪物は断末魔の咆哮を轟かせ、HPを全損してアリーナの地面に崩れ落ちる。

[レベルアップ:Lv.30 → 37]

 これでバンバンは完全に孤立した。

 ゴブリンは、いまだに走り回っている自らのイノシシをチラリと見やり、それからハジメを震える目で見つめた。

 光の粒子となって消滅していくキメラの死骸から、ハジメが剣を片手に降り立つ。全弾撃ち尽くしたミサイルアーマーはすでに役目を終え、システムのエフェクトと共に解除されていた。

 彼は手首を返し、『三日月の剣』をくるりと一度回して構え直す。

「……さあ、次はお前の番だぜ、トゲトゲ野郎」

 バンバンがゴクリと息を呑む音が聞こえた。

 観客席からは、アリーナ全体を揺るがすほどの爆発的な大歓声が沸き起こる。

  バンバンはまだ荒い息を吐きながらハンマーを構えていた。だがその時、アリーナの地面が大きく揺れた。

 砂の下から、地鳴りのような重い金属音が響いてくる。

 ハジメは踏み出そうとした足をピタリと止めた。

(これはシナリオ(スクリプト)にはなかったはずだぞ……)

 アリーナの中央、すり鉢状の地面が真円を描くように開き始めた。砂や石が逆さまの渦に吸い込まれるように舞い上がり、赤錆びた巨大な鋼鉄の柱が回転しながらゆっくりとせり上がってくる。

 その頂に立つのは、ゴブリンでもありふれたモンスターでもない。

 人型の存在ヒューマノイドだった。

 長身で、全身を覆う漆黒の甲冑には無数の鎖と赤錆びた鈴が巻き付いている。顔にあたる部分には、水平に三つのスリットが入った不気味な鉄仮面。そして背中には、太い鎖で繋がれた二振りの巨大な刃が背負われていた。

 実況のゴブリンも完全に虚を突かれたようにマイクへ絶叫した。

「ま、待てェ! こんなのプログラム(予定)にねえぞ! いったい誰だァ!?」

 その異形の姿が、ズシンと重々しい音を立てて柱からアリーナへと飛び降りた。ジャラジャラと不吉な鎖の鈴音が鳴る。

 直後、ハジメの視界に突如として真紅のシステムウィンドウがポップアップした。

[名前:鎖の死刑執行人チェイン・エクスキューショナー

[称号:黒き闘技場の処刑者]

 ハジメは険しい表情で眉をひそめた。

(『処刑者エクスキューショナー』の称号……こいつはただのグラディエーターじゃない)

 バンバンも新たな乱入者を見て、明らかな恐怖に一歩後ずさった。

 だが『鎖の死刑執行人』は一言も発さない。ただ静かに右手を持ち上げた。すると、背中に巻き付いていた鎖が生き物のように独りでに解け、空中で大蛇のようにのたうち回る。二振りの巨大な刃が鎖に引かれ、彼の周囲を猛スピードで旋回し始めた。

 ハジメはすかさずスキル『オーディンのアイ・オブ・オーディン』をアクティブにした。

 ――だが、何も起きない。

 HPバーもステータスも、一切表示されなかったのだ。

(ステータス解析をブロックしているのか……? かなり高ランクのパッシブスキルを持ってるな)

 次の瞬間、最初の一撃チェーンが一直線に飛んできた。あまりにも速すぎる。

 ハジメは間一髪で身を躱す。肩を掠めた刃はアリーナの石壁に深々と突き刺さり、巨大な亀裂を走らせた。

(なんだあのデタラメな速度は。おまけに、攻撃した後の軌道までコントロールしてるぞ)

 その混乱に乗じ、バンバンが背後から『死刑執行人』に襲いかかった。

 ――それが命取りだった。

 空中を舞っていたもう一本の鎖が反転し、ゴブリンの腕に激しく巻き付く。そして乾いた音とともに強引に引き寄せ、高さ8メートルの石壁に向かってバンバンの体を力任せに叩きつけた。

 ドゴォォォンッ!!

 凄まじい衝撃音が響き渡る。ゴブリンのHPバーが一瞬にして底を突き、バンバンはデジタルの血を吐き出しながら膝から崩れ落ちた。

 ハジメは『三日月のクレセント・ソード』の柄を強く握り直す。

(2人の敵。1人はすでに虫の息だ。そしてもう1人は……どうやら、明らかに俺だけをターゲットにして来ているな)

 『鎖の死刑執行人』が、ハジメの力量を値踏みするようにゆっくりと首を傾けた。

 そして、彼の周囲を舞う二振りの刃が、さらに一段と回転速度を上げていく。

 先ほどまで熱狂と興奮に包まれていた観客席は、今や息を呑むような緊迫した静寂に支配されていた。

 ハジメは逃げることなく、あえて一歩前に踏み出した。

「……来いよ」

 最初の激突は、暴力そのものだった。

 ハジメは自らの素早さを活かし、刃の間合い(リーチ)へとヒット&アウェイを繰り返す。しかし、彼が接近を試みるたびに、鎖はまるで意志を持っているかのようにギリギリのタイミングで軌道を変え、ハジメを確実に狙って襲いかかってきた。

(鎖を思考でコントロールしているのか。ただの力任せじゃない)

 一振りの刃が、ハジメの脇腹を浅く掠めた。

[HP:44 → 37]

 ハジメは後方へ跳んで距離を取り、走りながら弓を引き絞って2本の矢を放つ。だが、『鎖の死刑執行人』はほんの数センチ身体を動かしただけだった。放たれた矢は、空中で意志を持つ鎖の刃によって真っ二つに切り裂かれてしまう。

(飛び道具すらも斬り落とすっていうのか……)

 地面に倒れ伏しているバンバンが、デジタルの血を吐きながら弱々しい声で叫んだ。

「こ、こんなヤツ……公式の闘技場コロシアムじゃ見たこともねえぞ!」

 ハジメは敵から一切目を逸らさずに思考を回す。

(なら、こいつはコロシアムの正規グラディエーターじゃなく、何らかの『ツケ』を回収しにきた本物の処刑人ってわけだ)

 『死刑執行人』はハジメを見据えたまま言葉を発しない。ただ、鉄仮面の奥から獣のような低い唸り声だけが漏れ聞こえていた。

(ミサイルアーマーはもう残っていない。近接戦インファイトでケリをつけるしかないな)

 ハジメはジグザグに前進し、『鎖鎌くさりがま』の分銅を投擲して一本の鎖を絡め取ろうと試みた。

 ――捕らえた。

 だが、それもほんの1秒のことだった。

 絡め取られた鎖が巨大な蛇のように激しくのたうち回り、逆にデタラメな膂力で『鎖鎌』ごとハジメを引きずり込んだのだ。2メートルほど強引に引きずられたところで、ハジメはたまらず武器から手を放す。

 空を舞った『鎖鎌』は、そのまま遠くの石壁に深く突き刺さり、完全に武器をロストしてしまった。

(クソッ……!)

 これで手元に残された近接武器は『三日月のクレセント・ソード』ただ一つ。

 『死刑執行人』が操る刃の回転速度がさらに一段と跳ね上がった。奴の周囲の空気が切り裂かれ、不気味な風鳴りがアリーナ全体に響き渡る。

 ハジメは、肌が粟立つような絶対的な危機感デッドサインを感じ取った。

(あの刃の直撃をまともに食らえば……間違いなく一撃で即死ワンパンだ)

 彼は視線を素早く動かし、虫の息ながらもまだ生き延びているバンバンを一瞥した。

 その瞬間、あるクレイジーなアイデアが脳裏をよぎる。

「まだ動けるか、トゲトゲ野郎?」

 バンバンはむせ返りながら、力なく首を縦に振った。

 ハジメは不敵に口角を吊り上げ、大声で叫んだ。

「なら、お前のイノシシ を貸せッ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。