これは最高レベルを超えている!
ハジメはアップデートが終わるのを待ちわびながら、丸一日ゲーム機を起動せずに過ごした。
翌日、彼はついにPCの電源を入れた。昨日すでに『トライアングル・オメガ』社の専用プログラムはダウンロードしてある。これからはこの社用ランチャーを経由してゲームを起動するのだ。いわば「ゲームをプレイすることが仕事」となる、プロゲーマーとしての在宅勤務の始まりである。
「起動する前に、まずはパッチノート(アップデート内容)を確認しておくか」
・新クラスの追加:ネクロマンサー(死霊術師)、ゴースト(幽霊)など
・NPCやモブの死体処理の変更:討伐後、即座にデータとなって消滅することはなくなり、ゲーム内時間で7日間残留する仕様に変更
・AIの挙動改善
・クラス専用コンテンツおよび専用パーク(特権)の追加
……
「とにかく追加要素がてんこ盛りだな! まあいい……さっそくゲーム開始だ!」
『グラン・アストリクス:レクイエムへようこそ』
ハジメがログインすると、アバターは『黄金の嘴亭』の自分の部屋のベッドの上にスポーンした。
彼はクエストを始めるため、ゴエモンを探そうと急いで階段を駆け下りた。
一階のフロアを見渡すと、ゴエモンはテーブルの近くに座っていた。アップデート明けということもあり、酒場には復帰したプレイヤーたちが大勢ひしめき合っている。
酒場の主であるライカン(ワーウルフ)が姿を現し、ハジメに挨拶をした。
「おはよう、ハジマックス!」
「ライカン……おはよう! 今日はすごく調子がいいよ!」
「ははっ、それは良かった。今日は一段と『力』がみなぎっているようだな、英雄殿」
「ああ! めちゃくちゃ『筋力』に溢れてるよ!」
「筋力」——ハジメがその言葉を口にした瞬間。
[NPC:ライカン - ステータス:筋力 200]
「!!!!!?」
空中に表示されたウィンドウを見て、ハジメは驚愕した。
(なんだ!? ライカンの筋力が200? 今まで誰のステータスも見ることはできなかったのに……待てよ! これが『オーディンの眼』の効果か!?)
ハジメは慌てて声に出した。
「『敏捷』!」
……。
…………。
(くそ、何も起きない。クールダウン(再使用待機時間)があるのか? それとも1人のNPCにつき1回しか使えないのか、あるいは全体での回数制限か……)
だが、他人のステータスを覗き見ることができるのは破格の能力だ。別のNPCで試してみる価値はある。
ハジメは酒場のステージで歌っている吟遊詩人の一人に近づき、わざとらしく咳払いをした。
「ゴホン、ゴホン……『一番低いステータス』……ゴホン」
[NPC:ジャクソン(吟遊詩人) - ステータス:筋力 5]
(筋力……なるほど。じゃあ『筋力』以外のステータスでも指定できるのか?)
ハジメは反対側にいるもう一人の吟遊詩人に近づいた。
「ゴホン、ゴホン……『一番高いステータス』……ゴホン」
[NPC:マイケル(吟遊詩人) - ステータス:弁舌 60]
(よし! どのステータスでも、どのNPCでも機能するぞ)とハジメはほくそ笑んだ。
(まだ『1人のNPCにつき1回だけ』の制限があるのかは分からないが……。通常、ステータスの最大値は『999』だから、ライカンの筋力200はかなり強い部類だな。それに引き換え、この吟遊詩人たちはあまりカリスマ性がないみたいだけど……。そうだ! ゴエモンだ、あいつのこと忘れてた。さっさとクエストに行かないと)
ハジメはゴエモンと合流するため、酒場を横切った。
(……待てよ)
ハジメはゴエモンに気づかれないよう、しゃがみ込みながらゆっくりと背後から近づいた。
「……『一番高いステータス』……」
ハジメは小声で囁いた。
(さあ、あのゴエモンとやらの器を見せてもらおうか。ヒヒヒ……)
[敏捷:1000]
……。
…………。
………………。
「せんっ!!!!!(1000!!!!!)」
ハジメが酒場中に響き渡る大声を上げたため、周囲にいたNPCやプレイヤーたちが一斉に彼をジロジロと見た。ゴエモンも振り向いた。
「おお、ハジマックス! やっと見つけたぜ。昨日、英雄たち(プレイヤー)が数時間ほど一斉に消えちまったから、ここでずっとお前を待ってたんだ」
ハジメは信じられないものを見る目で、ポカンと口を開けたままゴエモンを見つめていた。ゴエモンは返事がないことに首を傾げている。
(1000!!!? どういうことだよ、ステータスのカンストは999のはずだろ! それを差し引いても高すぎる、高すぎるぞ! 俺の一番高いステータスなんてまだ19だぞ……!? 一体何者なんだ、このゴエモンって奴は……。これは……これは……最高じゃないか!)
ハジメは目の前の男を見つめながら、強烈な興奮を覚えていた。
(ゴエモン、お前が何者かは知らないが、俺にもっとゲームをやり込む意欲を与えてくれてありがとう!)
いつか必ず、目の前にいるこの男を越えてみせる——ハジメの心にそんな強い自信と野心が燃え上がっていた。
当のゴエモン本人は、ハジメからの返答を待ちながら、未だに不思議そうな顔をして首を傾げていたが。




