前へ進むための新たなチャンス
翌朝、目を覚ましたハジメはPCの電源を入れ、ゲームのアップデートを開始した。
「うわっ、アプデ容量560GB!? ほぼ丸一日かかるじゃねえか……」
アップデートを進行状態にしたまま、ハジメはかっちりとしたフォーマルな服に着替え、階段を降りて一階へと向かった。
(ゲームはこれからもプレイし続けるつもりだが、暇な時間でちゃんと仕事も探さないとな。親父とおふくろも、これについては意見が一致していたし)
ハジメは昼食をとるために食卓についた。
そこには父親が座っていた。髪の色から目の形に至るまで、まるで鏡に映ったハジメ自身をそのまま年老かせたような、瓜二つの容姿をしている。やがて母親もやって来て席についた。
「今日、求職活動(面接)に行ってくるよ」
「そうか、それは良い知らせだ。今度こそ決まるといいな」
父親はそう言葉をかけると、静かに食事を再開した。
「あまり自分を追い詰めすぎちゃダメよ。落ち着いて、自信を持って臨みなさい」
「うん、分かった。ありがとう」
ハジメは両親に感謝を伝え、昼食を平らげた。
家を出たハジメは電車に乗り込んだ。
(13歳の時の泥沼の連敗以来、ずっと深刻なトラウマを抱えてたんだよな。当時は周りから散々嘲笑されて、完全に自信を打ち砕かれた。でも、こうしてゲームに復帰してソロでボスを倒したことで、少しだけ感覚を取り戻せた気がする。まだ他のプレイヤーと正面から対戦(PVP)するのは不安だけど……いつか絶対、あの頃の自分を超えてみせる)
電車が駅に到着し、ハジメはホームへと降り立った。賑やかな街の通りを歩いていく。
西暦2050年の世界は活気に満ち溢れ、テクノロジーは目覚ましい進化を遂げていた。人類の大きな国際紛争の多くはすでに解決され、人々が抱える主な懸念事項といえば貧困や時折起こる犯罪程度となっていた。
だが、その平和さは世界をどこか退屈なものにも変えていた。それこそがVR(仮想現実)技術が爆発的な進化を遂げた理由であり、人々は自分の理想の世界で生きるためにVRへと没入していったのだ。
ハジメは、目の前にそびえ立つ巨大な高層ビルの前に足を止めた。誇らしげに視線を上に向ける。
ビルには大きなロゴが掲げ出されていた。
『Triangle Omega』
大ヒット作『グラン・アストリクス:レクイエム』をはじめ、数々の名作を手掛け、そして何よりVR業界に革命をもたらした『NeoVRプログラム』の生みの親である超大手開発会社だ。
ハジメは気を引き締め、スーツの襟を正した。
「よし! 面接、行ってくるか!」




