金が欲しいんであって、惨めな思いはしたくない!
ハジメとクラング!は別れを告げ、それぞれの目的地へと向かった。
ハジメは『黄金の嘴亭』に入り、銅貨を5枚支払って部屋をもう一晩延長した。これでここがリスポーン地点として設定される。
彼はルートヴィヒに渡す用のワインを一つだけ分け、残りの積荷をインベントリに収納した。
ベッドに横たわり、ハジメはログアウトを選択する。
「ふぅ……結構ぶっ通しでプレイしたな。現実時間はもう夜の20時7分か。なんか飯食って、シャワー浴びてこよう」
その日は家でゆっくり過ごし、翌朝。
朝食を食べながら、ハジメは何気なく自分が投稿したゲームのプレイ動画を開いた。
「さて、あのクリップの再生数はどうなってるかな……って、500万再生!!??」
一体何が起きているのか。ハジメは慌ててコメント欄をスクロールした。
『うお、何だこれ?』
『リリースから3週間毎日やってるけど、こんなの全く知らんぞ』
『どうやったらこれ見れるの?』
『期間限定イベント?』
『隠しカットシーンか?』
『これチート系のバグじゃないの?』
『どのラノベの展開だよこれw』
誰一人として、動画に映っているものが何なのか理解できていなかった。
ハジメがパソコンの画面に釘付けになってコメントを読んでいると、ゲームの運営システムから一通のダイレクトメッセージが届いた。
『おめでとうございます、プレイヤー! あなたは全サーバーにおいて、ランダムキャンペーンでのみ発生する【ユニーク・カットシーン】を初めて目撃したプレイヤーとなりました』
「俺が世界初!? まじかよ!」
ハジメは興奮しながらメッセージの続きを読んだ。
『通常のストーリーモードは各プレイヤーの個人的な物語を完結させるものですが、あなたは【世界のストーリーモード(ワールド・ストーリー)】を進行させるためのキャンペーンを引いた初めてのプレイヤーです。引き続き、グラン・アストリクスでの冒険をお楽しみください』
『システム通知:報奨金として100,000円があなたのアカウントに振り込まれました』
「じゅ、十万円!? 母ちゃん! 母ちゃーーん!! 今日は外食だ!!」
午前中を上機嫌で過ごした後、ハジメは13時きっかりにゲームを起動した。
『グラン・アストリクス:レクイエムへようこそ』
ハジメは『黄金の嘴亭』のベッドで目を覚ました。
「よし、行くぞ!」
ハジメは急いで一階の酒場へと駆け下りる。インベントリにはライカンに渡すワインの入った袋と、別枠にしておいた1本の特別なワインがある。
まずは酒場の外で、ルートヴィヒと合流した。
彼は全身黒ずくめの怪しい服装をしており、VR特有の『認識阻害のモヤ』のようなエフェクトで顔がぼやけて見えなくなっていた。
「例の物は、持ってきたか?」
「ああ、ここにあるぜ」
ハジメは一本のワインを手渡した。
「おお……マイ・プレシャス(愛しの宝物)!」
ルートヴィヒはコルクを抜き、うっとりとした様子でワインの香りを嗅いだ。
「素晴らしい香りだ。ありがとう、英雄よ。また会える日を楽しみにしている」
『クエストクリア』
【報酬】
・マジックミサイルの杖(レア魔法アイテム)
・200ゴールド
「よっしゃ! これでようやく金欠から抜け出せるぜ!」
ルートヴィヒが路地裏へと姿を消した後、ハジメは酒場に戻り、マスターのライカンに話しかけた。
「ほら、お前らのワインだ。残念だけど、強盗どもに何本か飲まれちまってたみたいだがな」
「おお、ありがとうございます、英雄様! 酒場を代表して感謝いたします。こちらが報酬です」
『クエストクリア』
【報酬】
・100ゴールド
・錬金術の素材ポーチ(レア魔法アイテム)
【現在の所持金】
・ブロンズ:0
・ゴールド:301
・プラチナ:0
「完璧だ! まとまった金も手に入ったし、魔法アイテムも2つゲットした……ってことは? ついに俺の新しいクラスを試す時が来たな!」
ハジメは意気揚々と町の外へ駆け出した。経験値稼ぎをしていた『白い回廊』の平原へと向かう。
周囲に人がいないことを確認し、ハジメはバッチリとポーズを決めた。
「よし! 変・身!!」
ハジメは新しいクラスの力を使って声高らかに叫んだ。
……。
…………。
………………。
何も起きない。
すると、視界の隅に小さなシステムウィンドウが表示された。
『※注意:現在のあなたのレベルでは、魔法アイテムを同化して変身用マスクを生成するのに【60分間】かかります』
「…………」
「ふざけんなああああああああ!!!」
ハジメの情けない叫び声が、平原に虚しく響き渡った。




