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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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18/25

第17夜 「夜の違和感」


今日も少女は夜を歩く。


――ミツケタ。


耳の奥で響いた声。


宵町カクリの背筋に冷たいものが走った。


「……っ」


思わず周囲を見回す。


だが演習場には、壊れた床と霊能者達しかいない。


れいなが不思議そうに首を傾げる。


「カクリちゃん?」


「……今、声」


篠崎冬華(しのざき ふゆか)が反応する。


「声?」


「誰か……」


カクリは言いかけて口を閉じた。


気のせいかもしれない。


でも、あの声。


聞き覚えがある。


夜。


暗闇。


姉が襲われたあの日。


あの時聞こえた不気味な音と、どこか似ていた。


『……どうした』


はっちゃんの声が少し低い。


『顔色悪ぃぞ』


「なんでもない」


カクリは小さく首を振った。


だが、胸の奥がざわついている。


冬華はしばらくカクリを見つめていたが、深くは聞かなかった。


「演習は中止します。全員、封印区画の再確認を」


霊能者達が散っていく。


れいなは少し不安そうだった。


「なんか今日、変だったね……」


「うん」


『妙な気配も増えてやがる』


はっちゃんが周囲を見回す。


地下演習場の空気は、さっきより重かった。


まるで何かがこちらを見ているような感覚。


その後、カクリ達は一度地上へ戻ることになった。


夜見ヶ館の廊下。


昼間なのに静かだった。


館の人達もどこか慌ただしい。


怪異の暴走。


それだけ異常なことなのだろう。


れいなが歩きながら呟く。


「封印区画って、普通はすっごく安全なんだよ?」


「そうなの?」


「うん。篠崎さん達が何重にも結界してるし」


『それをぶち破ったってわけか』


はっちゃんが嫌そうに鳴る。


『普通の怪異じゃねぇな』


カクリは窓の外を見る。


昼。


青空。


普通の景色。


でも、自分はもう知ってしまった。


この世界の裏側を。


「……ねぇ、れいなちゃん」


「なに?」


「霊能者って、怪異に殺されることもあるの?」


れいなの足が止まった。


少しだけ空気が変わる。


「……あるよ」


その声は静かだった。


「普通の人には見えないし、理解されないし、危ないし」


れいなは少し笑う。


でもその笑顔は、いつもの明るい笑顔じゃない。


「だから強くならなきゃなんだ」


カクリは黙って聞いていた。


その時。


廊下の向こうから、老人が慌てた様子で走ってきた。


「冬華さんはどこだ!?」


「封印室ですけど……」


「西側結界に反応が出た!」


空気が変わる。


館の空気が一気に緊張した。


れいなが青ざめる。


「え……?」


老人はカクリ達に気づく余裕もなく、そのまま奥へ走っていった。


『慌ただしいな』


「西側って……」


れいなが小さく呟く。


「街の方だ……」


その瞬間。


館全体が微かに揺れた。


ゴゥン……。


低い音。


窓ガラスが震える。


「っ!?」


カクリが身構える。


次の瞬間、館内に警報のような音が響いた。


ビーッ、ビーッ。


赤い灯りが点滅する。


『おいおい』


はっちゃんが低く笑う。


『なんか面白くなってきたじゃねぇか』


だがれいなの顔は真剣だった。


「……違う」


「?」


「この警報、“外”から強い怪異が来た時のやつ……」


その時、館内放送のような声が響く。


『全霊能者へ通達。西側市街地にて大型怪異反応確認。繰り返す――』


空気が張り詰める。


カクリの心臓がドクンと鳴った。


大型怪異。


その言葉だけで嫌な予感がする。


れいなが不安そうにカクリを見る。


「カクリちゃん……」


だがカクリは静かだった。


むしろ、その瞳は鋭くなっていた。


「……行くの?」


れいなが聞く。


その時。


篠崎冬華が廊下の奥から現れた。


コートを羽織り、札を持っている。


完全に戦闘態勢だった。


「れいな。待機」


「えっ」


「今回は危険度が高い」


れいなが悔しそうに唇を噛む。


冬華は次にカクリを見る。


少しだけ迷うような沈黙。


そして。


「……カクリさん」


「?」


「アナタはどうしますか?」


周囲の空気が静まり返る。


普通なら止めるはずだ。


相手は大型怪異。


子供が行く場所じゃない。


でも冬華は、カクリの実力を見ている。


カクリは巨大断ち鋏を見た。


はっちゃんが笑う。


『行くだろ?』


夜が呼んでいる。


怪異がいる。


そして――あの声。


もしかしたら。


もしかしたら、姉を襲った怪異に繋がるかもしれない。


カクリはゆっくり顔を上げた。


「……行く」


冬華は静かに頷いた。


「では、私の側を離れないように」


その瞬間。


館の外で、遠くから獣のような咆哮が響いた。


「ォォォォォォォオオオオ――――」


空気が震える。


窓の外。


昼なのに、空が少しだけ黒く濁って見えた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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