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聖女スキルは「鍋奉行」!?  作者: 肉じゃが男爵


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第5話 竜の巣と火鍋の試練


 ――山の空気って、なんでこんなに辛口なんだろう。


 私とレオンは、王都北部の「竜火山」へ向かっていた。

 雪の村ノールを救ったあと、村人から“穢れの源”がこの山にあると聞いたのだ。

 地面のあちこちから硫黄の煙が上がり、空気は熱く乾いている。

 それにしても、暑い。暑すぎる。


「もう無理……。汗が塩味Lv80なんですけど……」

「立ち止まるな、空気が毒を含んでいる。長く吸うと危険だ」

「毒!? え、聞いてないんですけど!?」


 慌てて口元を覆う。

 山の奥からは、ゴオオオッと低い咆哮が響いた。

 ただの風じゃない。何かが、生きている。


「穢れの正体は、“炎竜の怨念”らしい」

 レオンが険しい顔で言った。

「かつて討伐された竜が、この山の心臓に封じられた。その死骸が、今なお炎を吐いているという」

「……そんなの、どうやって鎮めるんですか」

「剣では斬れん。だが――君の“鍋”なら、あるいは」


 私の胸がドクンと鳴った。

 ――穢れを癒す鍋。

 この旅で何度も人々を救ってきたけれど、相手が“竜”だなんて。


「……やるしかない、ですね」

「無理はするな。俺が守る」


 その一言に、心の温度がほんの少し上がった。

 汗だくだけど、胸の奥は不思議とあたたかい。


 火口の洞窟に入ると、目の前に広がるのは真紅の地獄。

 岩肌が熔け、空気がゆらゆらと歪んでいる。

 中央には、巨大な黒い影――竜の骨が、まるで眠るように横たわっていた。


 骨の奥から、炎がたぎるような声が響く。


 《……我を煮るか、人の子よ》


「しゃべったぁぁ!?」

「構えるんだ、来るぞ!」


 次の瞬間、炎が爆ぜた。

 真紅の光線が岩を焼き、空間を歪ませる。

 私は反射的に身を伏せたが、レオンは一歩も引かずに前へ出た。


「《聖剣アージェント・リュミエール》――起動!」


 光が弾ける。

 銀の剣がまばゆい光を放ち、炎を裂いた。

 その姿はまるで、光の翼を持つ騎士。

 ……え、なにその厨二映画みたいな演出。かっこよすぎるんですけど!?


「結月、準備を!」

「了解っ! 《鍋奉行:火属性展開》!」


 私は急いで鍋を取り出し、火口の岩盤に置いた。

 底が赤く光り、空気がビリビリと震える。

 ――今回は、熱と戦う鍋。


 材料を取り出す。


鑑定結果:

《マグマ根菜》:辛味Lv60/発熱Lv80/耐炎効果(中)

《炎鳥の肉》:旨味Lv90/再生力Lv70/火精宿存率85%

《竜塩結晶》:塩味Lv100/精神集中補助(小)


「今回は……火鍋でいきます!」

「その辛そうな名前、まさか戦闘中に――」

「作るに決まってるでしょ!? 戦場は台所です!」


 私は汗をぬぐいながら、根菜を刻み、肉を投げ入れた。

 鍋の中で炎が踊る。油が弾ける。

 辛味の香りが鼻をつき、空気が真っ赤に染まる。


 レオンの剣が竜の炎を受け止めるたび、火花が散る。

 その後ろ姿は頼もしくて、美しくて――ほんの少し、切なかった。


 スープがぐつぐつ煮えたぎる。

 私は祈るように鍋に手をかざす。


「――《鍋奉行・神域加熱》!」


 鍋の縁が光り出し、周囲の熱を吸い上げていく。

 火山の炎が、まるで鍋に吸い込まれるように静まり始めた。

 同時に、空気がふっと冷たくなる。


「レオンさん! 今です!」

「了解!」


 彼が飛び込み、剣を振り抜いた。

 竜の骨に光の刃が走り、炎が散る。

 爆風が起こり、私は思わず目を閉じた――けれど、熱は来なかった。


 次に目を開けたとき、

 鍋の中には、真っ赤なスープが静かに煮え立っていた。


《鍋奉行スキル:炎竜火鍋》

効果:火精を浄化し、怨念を“旨味”へ変換。

追加効果:対象の魂を鎮め、熱を恵みへ変える。

ステータス上昇:活力+20/攻撃力+10/心温度+∞


「……炎が、消えた……?」

 洞窟の中は静まり返り、残ったのはスパイスと出汁の香りだけだった。

 竜の骨が、ゆっくりと黄金の光を放つ。


 《……我が怒り、ようやく眠る。人の鍋、見事だった》


 そう言い残して、竜の光は空へと昇っていった。


 戦いのあと。

 レオンが剣を地面に突き立て、ふぅと息を吐く。

 汗に濡れた髪が頬に張りつき、肩で息をしている。

 それでも、背筋はまっすぐだった。


「お疲れさまでした、レオンさん……」

「君こそ。まさか本当に炎を鍋で鎮めるとは」

「だって、火は熱いけど……煮えたぎれば旨味になるんですよ」


 ふっと、レオンが笑った。

「君の理屈は相変わらずだが……不思議と説得力がある」

「でしょ? 人生も、焦げないように煮込むのがコツです」


 私は鍋からスープをすくい、レオンに差し出した。

 彼はためらいなく飲み干す。

 次の瞬間、表情が少しだけ柔らかくなった。


「……あたたかい」

「うん。炎の中で煮込んだ“平和の味”です」


 空の向こうで、火口から黄金の蒸気が昇っていく。

 その光は、まるで竜の魂が祝福するように私たちを包んだ。


 私は心の中で小さく呟く。

 ――鍋は、戦いさえも溶かすんだ。


 洞窟を出る頃には、夕焼けが山肌を照らしていた。

 赤とオレンジの光が、まるで鍋の中のスープみたいにゆらめいている。

 私はふと隣を見た。


「レオンさんって、やっぱり強いんですね」

「職業柄な」

「でも、戦ってるときよりも――鍋食べてるときのほうが優しい顔してますよ」

「……それは君が作る鍋が、妙に落ち着くからだ」


 不意に、顔が熱くなった。

 たぶん火山のせい……ってことにしておこう。



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