第9話:魔力飢餓の精霊女王
露天風呂を満喫した翌朝。
シルフィア領の朝の空気は澄み渡り、エドガーは心地よい目覚めを迎えていた。
「おはようございます、マスター。朝食の準備が整っております」
完璧に着こなしたメイド服のアイリスが、銀のトレイを運んできた。
トレイの上には、焼きたての香ばしいパンと、湯気の立つスープ、そして淹れたての魔導焙煎コーヒー。
「ありがとう、アイリス。朝から贅沢だな」
「マスターにご奉仕できることが、我が回路における最大のエクスタシーです」
「あはは、表現が独特だな」
朝食を終えた後、セレーナが神妙な面持ちでエドガーのもとを訪ねてきた。
「エドガーさん、実は……領地の最奥にある『聖域の森』を見ていただきたいのです。百年前までは、この地の豊かな自然を司っていた神聖な場所なのですが……」
案内されたのは、領主館から馬車で三十分ほどの小高い丘だった。
かつては巨木が生い茂っていたであろうその場所には、葉をすべて落とし、幹が真っ白にひび割れた一本の巨木がぽつんと立っていた。
「これは……世界樹の幼木か」
「はい。この樹が枯れ果ててから、土地は砂漠化し、雨すら降らなくなってしまいました」
「完全に仮死状態ですね。根が吸い上げるべき地下魔力が枯渇したせいで、命の火が消えかけている」
エドガーが樹皮に触れると、幹の奥から微かな、弱々しいすすり泣きのような魔力パルスが伝わってきた。
『……くるしい……だれか……ひとしずくでいいの……ま力を……ちょうだい……』
「生きてるな。よし、点滴を打とう」
エドガーはツールバッグから、極太のミスリル製バイパスニードルを取り出した。
そして、世界樹の根元の導管へとプスリと突き刺す。
「アイリス、増幅炉からの送電ラインを直結しろ。周波数は自然属性同調グリーンパルスだ」
「了解、マスター。バルブ全開、接続します」
「――《生体リアクター・フルドライブ》、大地の恵みをたっぷり受け取れ!」
ゴオオオオオッ!
エドガーの両手から、新緑の輝きを放つ超高純度魔力が、奔流となって世界樹の幹へと流れ込んだ。
ひび割れていた白い幹が、みるみるうちに瑞々しい樹皮へと蘇っていく。
枯れ枝の先から、信じられない速度で無数の若葉が芽吹き、あっという間に青々とした大樹へと巨大化していった。
そして――。
世界樹の中心から、眩いエメラルドグリーンの光の粒子が溢れ出し、人の形を紡ぎ出した。
「あぁぁぁんっ……! な、なにこれぇぇっ……!?」
光の中から現れたのは、若草色の濡れたような長い髪に、花の冠を戴いた絶世の美女――常春の精霊女王、フロリアだった。
薄布一枚をまとった豊満な肉体をくねらせ、とろけきった瞳でエドガーを見つめている。
「こんな……こんな濃密で極上な魔力……わたくし、数千年生きてきて初めてですわぁ……っ! あたまが、ぽわぽわになっちゃいますぅ……!」
「お目覚めですか、精霊女王様」
「女王様だなんて堅苦しいですわ! フロリアとお呼びください、わたくしの愛しいマスター……!」
フロリアはいきなりエドガーに抱きつき、その豊かな胸を押し付けてすりすりと頬を寄せた。
「ひゃっ!? ち、近いですフロリアさん!」
セレーナが顔を真っ赤にして引き離そうとするが、フロリアはエドガーから離れようとしない。
「充電完了ですわ! お礼に、この土地を世界一の楽園にしてさしあげます!」




