第8話:勇者パーティ、深層でバッテリー切れ
帝国領内、大陸最難関と言われるダンジョン『冥府の深淵』地下五十階層。
赤黒いマグマが泡立つ灼熱の洞窟内で、勇者ギルバート率いる『白銀の流星』パーティは、かつてない絶望の中にいた。
「ハァ……ハァ……! おい、ガイル! 氷結結界でこの熱を冷ませ! 甲冑が焼けて肉が焦げそうだぞ!」
「む、無理ですギルバート様! 杖に仕込んだ魔石が……完全に光を失いました! 魔法が発動しません!」
大魔導士ガイルが、ただの木の棒と化した杖を両手で握りしめ、悲鳴をあげた。
「エレナ! 回復だ! 聖女の奇跡で俺の火傷を治せ!」
「だ、駄目です! ポーション生成器の魔石も切れていますし、私自身の魔力も……大気中の魔力が濁っていて、全く補充できません……!」
普段は傲慢に着飾っていた聖女エレナの豪奢なドレスは破れ、煤と泥にまみれていた。
彼らは知らなかったのだ。
ダンジョンの深層へ潜る冒険者たちが安全に無双できていたのは、エドガーが帝都から龍脈を通じて「超高純度の環境魔力」を迷宮全体へ送り込み、魔石の自動充電と空気の浄化を行っていたからだということを。
「クソッ、なぜだ! なぜ魔導具が全部動かないんだ!?」
ギルバートが誇る国宝の聖剣『フランベルジュ』も、刀身に宿っていた神聖な炎が消え去り、ただの重いナマクラ刀と化していた。
グルルルルル……ッ!
暗闇の中から、無数の赤い双眸が浮かび上がった。
深層の捕食者――ヘルハウンドの群れだ。
普段ならギルバートの聖剣の一振りで消し炭にできていた雑魚魔獣。だが、魔導バリアも炎の刃もない今の彼らにとっては、死神の群れに他ならなかった。
「ヒッ、ヒィィィィッ!?」
「来るな! あっちへ行けぇぇぇ!」
ギルバートは無我夢中でナマクラの聖剣を振り回したが、ヘルハウンドの強靭な顎に噛み砕かれ、刃がポッキリと折れた。
「ぎゃあああああああっ! 腕が! 俺の右腕がぁぁぁっ!」
「ギルバート様をお見捨てして逃げましょう!」
「待て、置いていくなガイル! エレナ、俺を助けろ!」
「離してくださいこの役立たず! あなたがエドガーを追い出したりするからこんなことになったんじゃないのよ!」
醜い罵り合いを響かせながら、かつての英雄たちは命からがら、暗闇のダンジョンを這々の体で逃げ惑うのだった。




