第10話:常春のパラダイスと初収穫
精霊女王フロリアの覚醒は、シルフィア領に文字通りの「天地創造」をもたらした。
「咲き誇りなさい、わたくしの子らよ! マスターの極上魔力をたっぷり浴びて、美味しく実るのですわ〜!」
フロリアが宙を舞い、緑の光の粉を大地へと振り撒く。
エドガーが地下に張り巡らせた【魔力温水パイプ】と【地熱調整グリッド】が、土壌の温度と湿度を常に完璧な数値に保ち、そこへフロリアの植物成長加速の権能が注ぎ込まれる。
ざざざざざざ……ッ!
赤茶けてひび割れていた荒野が、瞬く間に絨毯を敷き詰めたような鮮やかなエメラルドグリーンへと塗り替えられていく。
ただの雑草ではない。
黄金色に波打つ豊満な小麦の海。
拳よりも巨大な真っ赤なトマト、蜜が滴る黄金のリンゴ、宝石のように実ったブドウの房が、数千エーカーにわたる大農園を一瞬で埋め尽くした。
「す、すごい……! 種を蒔いてから、たったの三時間で実をつけるなんて……!」
セレーナが収穫したばかりの巨大なリンゴを両手で抱え、信じられない様子で震えている。
「採れたてを洗いました。どうぞ、セレーナ様」
アイリスが手際よく皮を剥いた果実を差し出す。
一口かじったセレーナの瞳が、驚愕で見開かれた。
「んんっ……!? あ、甘い……! 果汁が口いっぱいに弾けて、身体の奥から力が湧いてくるようです……!」
「エドガーの魔力がたっぷり溶け込んでいますからね。これ一つで、王都の一流レストランのフルコース以上の栄養価と魔力回復効果がありますわよ」
フロリアが得意げに胸を張る。
その日の夜、領主館の前庭では、盛大な大収穫祭が開かれた。
といっても、参加者はエドガー、セレーナ、アイリス、フロリアの四人(と、アイリスが整備した自律型作業ゴーレムたち)だけだが、並べられた料理の豪華さは帝国の宮廷晩餐会を遥かに凌駕していた。
石窯で香ばしく焼き上げた採れたて小麦のピッツァ。
完熟トマトと香草の煮込み料理。
エドガーが急速冷却した魔導ビールで、全員がグラスを合わせる。
「シルフィア領の再生と、最高の仲間たちに――乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
喉を鳴らして冷たいビールを煽り、出来立ての料理に舌鼓を打つ。
満天の星空の下、エドガーたちの笑い声が心地よく響き渡った。
「エドガーさん、本当に……本当にありがとうございます。私、この領地がこんなにも美しく生まれ変わるなんて、夢にも思っていませんでした」
セレーナが頬を赤らめ、涙ぐみながらエドガーの手を握りしめた。
「まだ始まったばかりですよ、セレーナ様。食料と住環境は整いました。次は――産業です」
「産業、ですか?」
「ええ。この領地を、誰にも侵略されない、世界で一番豊かで強大な自給自足の都市へと育て上げます」
エドガーの瞳には、すでに次の巨大な設計図が描かれていた。
美味しいご飯と温かい温泉、そして信頼できる仲間たち。
追放された男の気ままなパラダイス創りは、いよいよ本格的な「産業革命」のステージへと突入しようとしていた。
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第2章:産業革命とドワーフの平伏
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