第48話:天空の特産品と、成層圏スカイリゾートの開業
アガルタの墜落危機が去ってから、一ヶ月。
地上と高度一万メートルの天空都市を垂直に結ぶ【軌道エレベーター・シルフィアライン】は、正式に商業運行を開始していた。
「親方ぁ! 今日も地上発の昇降便、満員御礼だぜ!」
アガルタの玄関口に新設された【天空中央ステーション】。
ドワーフの棟梁バガンが、車掌帽を被って豪快に笑いながら、改札口を指差した。
スターゲイザー号の大型量産型カプセルから、地上の商人や観光客たちが続々と降り立ってくる。
「すごい……! 本当に雲の上まで、たった十分で来られたぞ!」
「見てみろ、空が真っ青を通り越して宇宙の星が見える!」
「息も苦しくないし、まるで地上の最高級ホテルより快適じゃないか!」
観光客たちが感嘆の声をあげる。
エドガーが敷設した軌道パイプラインにより、地上からは温かい温泉水と新鮮な地上の野菜が汲み上げられ、天空都市には世界初の【成層圏・雲上大露天風呂】が開業していた。
白亜の大理石で組まれた露天風呂に浸かりながら、眼下に広がる雲海と満天の星々を眺める――これ以上ない究極の贅沢に、大陸中の王侯貴族や大商人たちが殺到していた。
一方、地上へ向けては、天空の特産品が大量に出荷されていた。
太陽の光を極限まで浴びて育った【天空太陽リンゴ】。
雲の繊維を紡いだ、シルクよりも軽くて暖かい【浮遊綿の織物】。
そして、成層圏の特殊な気圧でしか結晶化しない、超高純度の魔石――【スタークリスタル】。
これらの品々がリニアエレベーターで地上へ爆速輸送され、シルフィア連邦の市場は連日空前の賑わいを見せていた。
「エドガー様、本日のアガルタ通商局からの売上報告です」
アガルタの新代表に就任したフィリアが、純白の巫女服の裾を翻して駆け寄ってきた。
その背中の四枚の翼は、エドガーの充電によってキラキラと光の粉を振り撒いている。
「地上との交易利益は、すでに金貨五十万枚を突破いたしました! 市民たちも皆、温かい住まいと美味しい食事に感謝し、エドガー様を讃える歌を毎日歌っております!」
「よかったです。みんなが幸せなら、ワイヤーを引いた甲斐がありましたよ」
エドガーが作業着のポケットに手を突っ込み、微笑む。
「あ、あの……ちなみに、前神官長のゼピュロス様ですが……」
「ああ、あの人ですか」
エドガーが手元のモニターをタップすると、地上のシルフィア大農園の監視カメラ映像が映し出された。
麦わら帽子を被り、泥だらけになってクワを振る元大神官長が、汗だくでトマトの収穫に追われている姿が映っていた。
『ハァハァ……! く、クソッ、雑草の生命力が強すぎる……! だが、この世界樹トマト、美味すぎるぞぉぉっ!』
「地上の土の温かさを知るいい機会でしょう。一年もすれば、立派な農夫になれますよ」
「ふふっ、エドガー様らしい優しいお仕置きですね」
フィリアがくすくすと鈴を転がすように笑った。




