第44話:垂直昇降カプセル『スターゲイザー』、雲海を突破す
シルフィア中央発着ステーション。
天に向かって真っ直ぐに伸びる、銀色に輝く一本の極太ワイヤー――【軌道エレベーター・テザーライン】。
エドガーの魔力誘導アンカーによって成層圏の静止高度へと射出され、地上の深礎基礎とガッチリと結合されたそのワイヤーに、一機の真新しい流線型のカプセルが接続されていた。
機体名は【スターゲイザー号】。
全長十五メートル。超高純度ミスリルと耐熱セラミックで密閉された機内は、気圧・酸素濃度・温度が完璧に一定に保たれている。
車内には、ふかふかの絨毯と革張りのリクライニングシート、そして天井にはパノラマビューの強化魔導ガラスが張られていた。
「皆様、シートベルトの着用をご確認ください。垂直加速フェーズへ移行します」
パイロットシートに座ったアイリスが、滑らかな音声でアナウンスを入れる。
乗客はエドガー、セレーナ、アステリア、フロリア、コーラリア、そして案内役のフィリアだ。
「フィリア、気分はどうだい? 耳がキーンとしたら唾を飲み込むといいよ」
「は、はいエドガー様……! でも、こんな密閉された箱で空を飛ぶなんて、有翼族の常識では考えられません……!」
フィリアはエドガーの隣の席で、おっかなびっくり窓の外を見つめている。
「ふふ、エドガーさんの造る乗り物は、外の嵐すら忘れるほど快適ですわよ」
セレーナが微笑みながら、テーブルにシャンパングラスを並べた。
「――《リニア電磁加速開始》。速度、マッハ一・五へ到達」
ドォォォォォンッ!!
わずかな浮遊感と共に、スターゲイザー号は音もなく急上昇を開始した。
窓の外の景色が、緑の大地から真っ白な雲の海へと一瞬で切り替わる。
時速千二百キロメートル。
翼を持つフィリアですら丸三日かかる高度一万メートルの成層圏へ向けて、カプセルは矢のように垂直に突き進んでいく。
ズバァァァァァァッ!!
分厚い乱気流の雲海を突き抜けた瞬間――窓の外に広がった光景に、全員が息を呑んだ。
「……わぁぁぁぁぁ……っ!」
アステリアが両手を窓に当てて歓声をあげた。
眼下に広がるのは、どこまでも続く純白の雲の絨毯。
そして頭上には――濃紺から漆黒へとグラデーションを描く、宇宙の縁の空。
真昼であるにもかかわらず、ダイヤモンドのような無数の星々が瞬き、太陽の光がカプセルの銀色の機体を眩いばかりに照らし出していた。
「綺麗……! 星が、こんなに近くに見えるなんて……!」
コーラリアが目を輝かせる。
「成層圏の外気は氷点下五十度、気圧は地上の十分の一以下ですが、機内は摂氏二十三度、一気圧を完全に維持しております」
アイリスが完璧な空調制御データを報告する。
「冷えた魔導シャンパンで乾杯しましょうか。天空への到達記念に」
エドガーがグラスを掲げると、全員が笑顔でグラスを打ち合わせた。
「「「乾杯!!」」」
シュワシュワと泡立つ美酒と、成層圏の絶景。
だが、その優雅なひとときの先――前方の一万メートル上空に、目指す目的地がその巨大な威容を現し始めていた。




