第42話:落ちてきた有翼の少女
ドサササササッ!
領主邸の裏庭、エドガーが敷設した【魔力軟着陸クッションフィールド】の柔らかな光のネットが、落下してきた影を優しく受け止めた。
枝を揺らして散ったリンゴの葉の真ん中に横たわっていたのは――息を呑むほど幻想的な、一人の少女だった。
「う……ぁ……誰か……天空を……お救い……」
陽光を浴びて淡く金色に輝く、プラチナブロンドの長い髪。
細身で小柄な少女の背中からは、白鳥の羽毛のように美しい純白の翼が二対――四枚も生えていた。
だが、その神聖な翼の根元は痛々しく黒ずみ、羽毛の端々は魔力枯渇によって炭のようにボロボロと崩れ落ちかけていた。
身にまとっているのは、古代ギリシャの神官服を思わせる純白の薄絹。胸元には、太陽の紋章が刻まれた金色の神聖なペンダントが揺れている。
「生体スキャン完了」
アイリスが少女の額に指先をかざし、即座に診断結果を読み上げる。
「種族・純血有翼族。成層圏からの長距離単独飛行による、重度の低酸素脳症および極低温凍傷。さらに……体内の浮遊エーテル器官が完全放電状態。残存生命力、危険水域です」
「高高度からの強行滑空ですね。羽毛に霜がびっしり張り付いている」
エドガーは少女を抱き上げ、果樹園のベンチへと寝かせた。
少女の身体は驚くほど軽く、まるで鳥の骨のように中空で繊細だった。体温は氷のように冷え切り、小さな胸が浅く不規則に上下している。
「可哀想に……! こんなに幼い女の子が、空のてっぺんから落ちてくるなんて……!」
アステリアが自らのショールを外し、少女の冷たい身体に優しく巻きつける。
「エドガー、わたくしの世界樹の露をお口に含ませてあげて!」
フロリアが瑞々しい緑の雫を少女の乾いた唇へと垂らす。
だが、少女の喉は引きつったように痙攣し、液体すら飲み込めない状態だった。
「駄目ですね。内臓の魔力吸収弁が完全に閉塞している。外からのポーションじゃ受け付けない」
エドガーは落ち着いた手つきで工具バッグを開け、細いミスリル製の魔力プローブを取り出した。
「エドガーさん、どうするのですか?」
「翼の付け根にある【飛翔エーテル核】へ、直接俺の魔力を点滴します。……少し刺激が強すぎるかもしれませんが、命には代えられません」
エドガーは少女の背中の翼の付け根――羽毛が薄くなり、淡い血管が透けて見える柔らかな皮膚へと、指先を優しく密着させた。
「痛くないように、極上のマイルド波形でいくぞ。――《生体リアクター起動》、エンゼルフェザー同調、バイパス送電開始」
ドクン……ッ。
エドガーの指先から、陽だまりのような暖かさを持つ、透き通った黄金の純粋魔力が注ぎ込まれた。
その瞬間――。
「んああああああああっ……!?」
少女の背中が弓なりに大きく反り返り、甘く艶やかな絶叫が果樹園に響き渡った。




