第41話:成層圏を貫く『星の柱(軌道エレベーター)』設計図
シルフィア自由連邦の中央広場。
青空高くそびえ立つ世界樹の巨木の根元に設けられた技術開発本部の大型テントで、一枚の巨大な青焼きの図面が広げられた。
その机を囲んでいたバガンたちドワーフの棟梁衆は、図面を見つめたまま、金縛りに遭ったかのように口をあんぐりと開けていた。
「お、親方……頼むからもう一度言ってくれ。俺の耳がボケてなきゃいいんだが……」
バガンは太い指で白い髭をわしづかみにしながら、脂汗を垂らしてエドガーを見上げた。
「聞こえた通りですよ、バガンさん。地上と、高度一万メートルに浮かぶ天空大陸アガルタを一本のワイヤーで結び、垂直に昇降する超大型エレベーターを建設します」
「い、一万メートルぅぅぅっ!? 天の星まで届くような柱を建てようってのか!?」
「柱ではありません。吊り橋の原理です」
エドガーはチョークを手に取り、黒板に滑らかな放物線を描いた。
「地上から建物を積み上げようとすれば、どんな超合金でも自重で根元から座屈(押し潰)してしまいます。ですが、天空大陸側から地上へ向けて、超高張力のナノカーボン・ミスリル複合ワイヤーを垂らし、地上の巨大アンカーブロックに固定すればどうなるか」
「ど、どうなるんだ……?」
「ワイヤーには常に『引っ張る力(引張応力)』だけがかかります。ミスリルの結晶格子を分子レベルで整列させたこの【超伝導単結晶ナノチューブワイヤー】なら、自重の数千倍の引っ張り荷重に耐えられます。あとはそのワイヤーに沿って、磁気反発のリニア昇降ポッドを走らせるだけです」
「な、引張強度十ギガパスカルだと……!? 計算上、大陸が丸ごとぶら下がっても千切れねえじゃねえか!!」
バガンが図面の端に記された応力計算式を覗き込み、頭を抱えて叫んだ。
隣にいた若手ドワーフの職人たちも、信じられないものを見るように図面に群がっている。
「親方……これ、本当に造れるのか……?」
「素材の精錬法と分子配列の電磁場テンプレートはすべてこのレシピ通りです。バガンさんの誘導加熱炉なら、すでに十キロメートル分のワイヤーを一週間で紡ぎ出せるはずですよ」
「ガハハハハッ! やってやろうじゃねえか!!」
バガンは膝をバチンと叩いて破顔した。
「海を潜った次は、空のてっぺんへ鉄の糸を引くってか! ドワーフの歴史上一番デカい仕事だ! 神話の時代が終わってから一番面白い祭りじゃねえか! 若衆ども、炉の火を最大にしろ! ミスリルを糸のように細く、金剛石より硬く引き伸ばすぞ!」
「「「オォォォッ!!」」」
地響きのような雄叫びを上げてドワーフたちが工房へ走り去っていく。
エドガーが汗を拭って息を吐くと、背後から柔らかな温もりがそっと背中に寄り添ってきた。
「エドガーさん、冷たいミントティーをお持ちしましたわ」
セレーナがガラスのポットから、透き通るような淡いグリーンのハーブティーを注いでくれる。
「いつも驚かされてばかりですけれど……エドガーさんの描く未来は、どうしてこんなにも胸が高鳴るのでしょうね」
「技術ってのは、本来誰かを幸せにするためにあるものですからね。前の職場じゃ兵器と搾取ばかりに使われていましたが、こうして皆で新しい道を切り拓くのは……うん、悪くない気分ですよ」
「マスター、軌道エレベーターの地上発着ステーション予定地ですが、領内の第一龍脈ターミナル直上を指定いたしました」
アイリスが完璧な敷地造成データをホログラムで展開する。
「地底から汲み上げたマスターの整流魔力を、そのまま垂直レールへ給電可能です」
「完璧だ、アイリス。これで準備は整った――」
エドガーが笑顔で頷きかけた、その時だった。
ヒュルルルルルル……ッ!
上空から、空気を切り裂くような鋭い風切り音が響き渡った。
見上げると、青空の彼方から、白い鳥のような影が不自然な螺旋を描きながら、猛スピードで落下してくるのが見えた。
「鳥……? いや、あれは――!?」
セレーナが息を呑んだ。
「人間大の飛行生命体反応を探知。外見特徴より照合――古代有翼族と識別。……落下の軌道上、領主邸の果樹園へ激突コースです!」
「アイリス、緩衝トラップフィールドを展開しろ!」
「了解、マスター!」




