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第39話:外海自由貿易圏の成立と人魚姫の求婚

凶悪な海賊連合の完全無力化、そして外海全域の魔海流の消滅。

 この報せは、瞬く間に大陸中の港湾都市と海洋国家を熱狂させた。


 シルフィア沿岸の港では、安全になった外海へ向けて、大陸中の商船が一斉に出航の汽笛を鳴らしていた。

 ゴールドマン商会の船団が、シルフィアの新鮮な農作物や超伝導魔導具を満載して外海へ向かい、数日後には珍しい南方の果実や真珠、未知の深海鉱石を満載して帰港する。

 【外海自由貿易圏】の誕生。

 シルフィア自由連邦の経済規模は、かつての帝国の最盛期すら遥かに凌駕するレベルへと跳ね上がっていた。


 そして――。

 シルフィアの領主邸大広間では、ルルイエ王国との正式な通商条約締結式が執り行われていた。


「エドガー様、セレーナ大公閣下。ルルイエ王国は、シルフィア連邦と永遠の盟約を結びます」

 人魚王ネプシスが、真珠母貝でできた条約書に署名し、深々と頭を下げた。


「エドガー様のおかげで、我が国の民は温かい光の中で暮らすことができ、海賊の脅威からも解放されました。……そこでです、エドガー様」

「はい、何でしょう?」


 エドガーが応じると、ネプシス王はパッと顔を輝かせ、娘のコーラリアの背中をポンと押した。


「我が愛娘コーラリアを、ぜひエドガー様の正妻……いや、側室でも愛人でも構いません! お傍に置いてやっていただきたい!」


「……は?」

 エドガーが固まる。


「ふえぇぇっ!? ち、父上……!?」

 コーラリアは人間の脚のまま、顔から湯気が出そうなほど真っ赤になって両手で頬を押さえた。

「で、でも……私、エドガー様の充電(魔力)がないと、もう生きていけない身体になってしまいましたし……エドガー様のことが、だ、大好きです……!」

 もじもじしながら、上目遣いにエドガーの服の裾を掴む美少女人魚。


 だが――その瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 大広間の空気が、一瞬にして氷点下へと凍りついた。


「ネプシス王……? いま、なんとおっしゃいましたの……?」

 セレーナが引きつった笑顔のまま、手にした万年筆をミシミシと軋ませている。


「マスターの正妻ポジションは、設計段階よりメイド長である私が登録済みです。他種族の割り込みはプロトコル違反と認定します」

 アイリスが背中の主砲をカチャリと展開させかける。


「抜け駆けは許しませんわ〜! エドガーの隣は、わたくしが根を張る場所ですのよ〜!」

 フロリアの世界樹の蔓が、威嚇するようにウネウネと蠢く。


「エ、エドガー様の健康管理は、元皇女である私が責任を持つとお約束したはずです……っ!」

 アステリアも頬を真っ赤にして前に立ちはだかる。


「ちょ、ちょっと待ってください皆さん! 落ち着いて!」

 エドガーが両手を広げて宥めようとするが、五人の美少女たちの視線がバチバチと火花を散らし、広間は修羅場と化していた。


「ガハハハ! 親方、モテすぎて身が持たねえな!」

 バガンの豪快な笑い声だけが、陽気に響き渡っていた。

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