第36話:海底光魔力ケーブル、大陸と深海を直結す
ルルイエ王国の深海熱交換炉が息を吹き返したことで、海底都市は文字通りの「深海パラダイス」へと生まれ変わった。
凍てついていた海水は心地よい温水プールとなり、街中の魔導真珠が温かなエメラルドグリーンの光を放ち、何万人もの人魚たちが歓喜の歌を歌い踊っていた。
街角の市場には、温水流によって急速に育った深海海草のサラダや、ルルイエ特産の巨大エビのグリルが並び、子供たちの屈託のない笑い声が泡となって天井のドームへと立ち上っている。
だが、炉の修理を終えて作業着の汗を拭ったエドガーは、すでに次の工程表を広げていた。
「よし、炉の安定稼働と熱水循環は確認できた。……次は、回線を繋ごう」
「回線、ですかエドガー様?」
人間の脚の姿になり、エドガーの背中にぴったりと寄り添っていた人魚姫コーラリアが、首を傾げた。
彼女の白い肌はエドガーの充電によってツヤツヤと輝き、すっかりエドガーの懐きペット……ならぬ熱烈な信奉者と化していた。
「ええ。せっかく海底都市を復旧させたのに、陸と海が孤立したままじゃ意味がないでしょう? ――海底光魔力ケーブルを敷設します」
「か、海底ケーブル……!?」
「そうです。超高純度ミスリル光ファイバーを海溝に這わせて、シルフィア連邦とルルイエを直結させます。これ一本で、大陸からのクリーン電力の相互融通、深海資源のエネルギー買い取り、そしてリアルタイムの魔導音声通信が可能になります」
エドガーがノーチラス号の後部ハッチを開くと、そこにはバガンたちが削り出した巨大なドラムに巻かれた、数千キロメートルにも及ぶ銀色のケーブルが満載されていた。
ケーブルの芯線には、エドガーが開発した超低損失ミスリル光導波路が組み込まれ、外層は深海の水圧とサメの噛みつきに耐える多重チタンワイヤーで強固に防護されている。
「親方ぁ! ケーブル敷設用のアタッチメント、潜水艦の船尾にセット完了したぜ!」
バガンが油まみれのタオルを首にかけ、サムズアップした。
「よし、敷設開始だ。アイリス、自動海底埋設ソナーを作動させろ」
「了解、マスター。海溝ルートをトレース、毎時四十ノットで敷設を開始します」
ノーチラス号の船尾から、銀色の光の線が海溝の底へと滑らかに沈み込んでいく。
泥の中に自動で浅く埋設されながら、ケーブルは大陸のシルフィア沿岸変電所と海底王国ルルイエを一本の神経のように繋いでいく。
そのケーブルを通じて、エドガーの生体リアクターの余剰魔力と、シルフィアの最新ラジオ放送の電波が海底へと流れ込んだ。
『――こちらはシルフィア連邦中央放送。本日のエドガー様プロデュース、海底開通記念ヒットチャートをお届けします』
ルルイエの街角のスピーカーから、クリアな音楽とアナウンサーの陽気な声が響き渡った瞬間、人魚族の若者たちが目を輝かせて歓声を上げた。
「す、すごい……! 陸の人間たちの音楽が、海の底で雑音ひとつなく聴こえるぞ!」
「あんな何千キロも遠い場所と、一秒の遅れもなくお話ができるなんて……!」
海底と大陸を隔てていた数千メートルの水深は、エドガーの一本のケーブルによって、ゼロ距離へと縮まったのだった。




