第30話:主電源(マスター)は二度と抜かれない
夕暮れの空を、燃えるような茜色と紫のグラデーションが美しく染め上げていた。
シルフィアの丘の上にそびえる世界樹の展望デッキから見下ろすと、地平線の彼方まで広がる黄金色の穀倉地帯と、白銀の近未来都市が雄大に広がっている。
夕闇の迫る街並みには、等間隔に配置された魔導街灯がポツポツと優しい光を灯し始め、まるで満天の星空が地上に舞い降りたかのようだった。
銀色に輝く超伝導レールの上を、光の矢のようなリニア列車が、静かな風切り音とともに滑らかに駆け抜けていく。
「本当に、綺麗ですね……エドガーさん」
隣に並んだセレーナが、愛おしそうに街の灯りを見つめた。
「ああ。本当にいい街になった」
エドガーは作業着のポケットに両手を突っ込み、穏やかに目を細めた。
「最初は、帝国の嫌がらせが届かない静かな場所で、美味い飯を食ってのんびり昼寝でもできればいいと思っていたんだがな。気づけばこんなに賑やかな大国になってしまった」
「それは、マスターが誰よりも誠実で、命を尊ぶ本物の技術者だからです」
アイリスがそっとエドガーの左手を取り、自分の柔らかな頬へと寄せた。
「世界中の愚か者たちがあなたを切り捨てても、私たちは絶対にあなたを離しません」
「そうですわエドガー! わたくしたちの魂の根っこは、もうあなたと深く強く結ばれているんですもの!」
フロリアがエドガーの背中にぴったりと密着し、甘えるように翼を震わせる。
「私も……エドガー様と共に、この新しい世界を歩んでいきたいです。生涯、あなたの隣で」
アステリアがエドガーの右手を取り、白く細い指を絡め合わせた。
三人の美少女、そしてシルフィアの統治者たるセレーナ。
大陸で最も尊く、最も美しい四人の少女たちからの、嘘偽りのない絶対の愛と信頼。
エドガーは深く息を吸い込み、暮れなずむ空を見上げた。
かつて、薄暗く湿った地下室で無能と罵られ、切り捨てられたあの日。
怒りと虚しさを胸に、主電源プラグを抜いて立ち去ったあの瞬間から、自分の本当の人生は始まったのだ。
「エドガーさん。……あなたのプラグは、もう二度と抜かれたりしませんよね?」
セレーナが上目遣いに、少しだけ不安そうに尋ねてきた。
エドガーは優しく微笑み、四人の手をぎゅっと力強く握り返した。
「ああ、もちろんだとも」
エドガーは迷いのない、力強い声ではっきりと告げた。
「俺の主電源は――君たちと、この街の未来のためだけに、永遠に繋ぎ続けるよ」
ポォォォォォッ……!!
遠く地平線の彼方から、大陸横断列車の誇らしげな汽笛が、夕暮れの空へと高らかに響き渡った。
世界を裏から支えていた天才技術者の、最高に気ままで、最高に愛されたスローライフは――。
これからも光り輝く未来へと、どこまでも走り続けていくのだった。
(第1部・完)
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第4章:外海航路の解放と人魚姫の充電要請
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