第26話:ドワーフの決死隊とエドガーの超精密バイパス手術
帝立中央魔導研究所の最深部――地下三百メートル。
かつてエドガーが五年間、誰からも感謝されることなく、ただ黙々と保守点検を続けていた中央炉心フロアは、いまや灼熱と狂気の阿鼻叫喚に包まれていた。
室温はすでに摂氏八十五度を超え、大気中に充満した超高濃度の生魔力が、紫色のプラズマ放電となってバチバチと耐火レンガの壁面を焼き焦がしている。
かつてエドガーが寸分の狂いもなく組み上げた三千本の配管は、無謀な過電流によって飴細工のようにぐにゃりと曲がり、継ぎ目からは高圧の沸騰蒸気が白煙を上げて噴き出していた。
中央に鎮座する巨大な炉心チャンバーは、今にも内側から破裂しそうな巨大な心臓のように、ドクン、ドクンと重低音を響かせながら赤黒く脈動している。
「ひ、ヒィィィッ! 助けてくれぇぇぇっ! 炉心が……炉心が爆縮するぅぅっ!」
「開けろ! 防護扉を開けてくれ! 我らは高貴なる貴族魔導士なのだぞ!」
床に這いつくばり、恐怖で失禁して泣き叫んでいたのは、エドガーの追放後に現場の管理責任者を気取っていた宮廷魔導士たちの残党だった。
彼らはエドガーが残した緻密な保守マニュアルを「雑用係の落書き」と嘲笑って焼き捨て、保身と手柄のために安全弁を無理やり締め上げ、定格の数倍もの魔力を力任せに引き出そうとしたのだ。
その結果が、この破滅的な太古龍脈の凝固現象――【星の血栓】だった。
「邪魔だ、失せろ寄生虫のクズどもがぁっ!」
ドワーフの棟梁バガンが、丸太のような太い剛腕で貴族魔導士たちの襟首を鷲掴みにし、後方の安全通路へと俵のように次々と放り投げた。
ドスン! バタン! と無様に転がる貴族たちを一瞥すら拒み、バガンは胸の白髭を猛々しく揺らして吠えた。
「ドワーフの若衆ども、超伝導ミスリルバイパス管を組め! 一秒でも遅れたら帝都ごとミンチだぞ!」
「「「オゥッ!!」」」
シルフィアから駆けつけた五十名のドワーフ精鋭工兵隊が、灼熱の熱波を物ともせずに跳び回る。
エドガーが工作機械で削り出しておいた精密な組み立て式超高圧配管が、ガキン! ガキン! と驚異的な精度とスピードで炉心の周囲に組み上げられていく。
「――変圧バイパスライン、アライメント完了。全系統、手動バルブ解放準備よし」
エドガーは重厚な防熱コートを脱ぎ捨て、作業着の袖を肘までまくり上げた。
眼前に渦巻くのは、太古の神話竜数千頭分に匹敵する、荒れ狂う生の龍脈エネルギー。
触れれば生身の肉体はおろか魂の構成情報すら瞬時に素粒子レベルで分解される死の奔流。
「マスター、体内魔力コンデンサの定格許容量、限界突破を事前警告します」
アイリスのバイザーに無数の警告ログが超高速でスクロールする。
「この規模の生魔力を直接バイパスした場合、術者の肉体崩壊確率は九六・八パーセント――」
「アイリス、俺を誰だと思ってるんだ?」
エドガーは不敵な笑みを浮かべ、両手を大きく広げた。
「大陸全土を動かす主電源を、たった一人で五年間回し続けた男だぞ。――《生体リアクター・アンリミテッド・オーバードライブ》!!」
ドッバァァァァァァァァンッ!!
エドガーの両掌から迸った眩い白銀の魔力光が、荒れ狂う紫色のプラズマ奔流を真正面から真っ向から受け止めた。
空間がグニャリと歪み、地下の強化コンクリート床が重力波によって粉々に砕け散る。
エドガーの皮膚の下を走るすべての血管が、神話の光糸のように黄金色に発光した。
荒れ狂う龍脈の奔流がエドガーの肉体を通過するその一瞬――周波数が整えられ、位相が同期され、過剰な高調波ノイズがすべて完璧に整流・降圧されていく。
「ぐ……ぬぅぅぅぅっ……! バガンさん、メインバイパスバルブを全開にしろ!!」
「全開だぁぁぁぁっ、親方ぁぁぁっ!!」
ガキンッ! と巨大なミスリルバルブが叩き切られた瞬間、エドガーの体内で清流へと生まれ変わった膨大なクリーン魔力が、新設された超伝導パイプラインへと雪崩れ込んだ。
赤黒くドス黒く濁り狂っていた炉心の核が、見る見るうちに透き通るような白銀の輝きへと浄化されていく。
「よし……血栓の一次破砕に成功! だが……エネルギー量が想定の三倍を超えている! このままではパイプの熱容量が持たずに焼き切れるぞ!」
「マスター、そのエネルギー――我が外付け主フレームへ直結してください!」




