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第24話:超伝導リニアの試運転、大陸最速の衝撃

時速五百キロメートル。

 それは、この大陸の生物が歴史上かつて一度たりとも体感したことのない、未知なる神速の領域だった。


「ふ、ふえぇぇぇぇぇっ!? は、速い……景色が……景色が溶けていきますわぁぁぁっ!?」


 豪華な特別展望車両のシートにしがみつき、目を白黒させているのはアステリア皇女だった。

 窓の外の雪景色は、まるで絵の具をぶちまけたような猛烈な流星となって後方へと飛び去っていく。

 かつて帝国軍の早馬が死ぬ気で走らせても一週間を要した険しい山越えの街道を、この白銀の巨体はわずか十五分で駆け抜けていた。


「ふふ、アステリア殿下、どうぞご安心ください。磁気反発制御により、車体の揺れは完全に相殺されておりますよ」


 向かいのボックスシートで優雅に紅茶を淹れているのは、セレーナだった。

 テーブルの上に置かれたガラスのティーカップの水面は、時速五百キロで大地を爆走している最中であるにもかかわらず、さざ波ひとつ立たずに鏡のように静止している。


「ど、どうして……!? こんなにも恐ろしい速度で飛んでいるのに、一滴の紅茶すら零れないのですか……!?」

「エドガーの設計した【三軸空間慣性制御フィールド】のおかげですわ〜! まるで雲の上でポカポカお昼寝しているみたいに快適ですの〜!」


 フロリアがふかふかの革張りソファに寝そべり、車内保冷庫から取り出した冷たい世界樹のシャーベットをご機嫌でスプーンですくい、口元へ運ぶ。


「マスター。先行区間百五十キロの軌道安定性、オールグリーン。車載インバータの魔力変換効率、九九・八パーセントで極めて安定。予定ダイヤ通りの時刻に帝都南門広場へ進入可能です」

 運転台から戻ってきたアイリスが、エドガーに最新の運行テレメトリを手渡した。


「ありがとう、アイリス。バガンさんたちの敷設した超伝導ミスリルレール、ミリ単位の歪みすら出ていないな。完璧な仕事だ」

 エドガーは作業着の胸ポケットから懐中時計を取り出し、カチリと蓋を閉じた。


 彼らが乗る列車――それはシルフィアの工業力とエドガーの英知を結集して完成させた、大陸初の超伝導リニア列車【ライトニング・エクスプレス】だった。

 車輪を持たず、レールからわずか十センチ浮上したまま、摩擦ゼロで滑走する白銀の流線型特急。

 後続に連結された三十両の貨物コンテナには、シルフィア大農園で採れた数万食分の温かいパンと濃縮スープ、極寒の帝都を暖める高密度蓄魔セル、そして凍傷治療用のナノポーションが山のように満載されていた。


「エドガー様……本当に、これほどの物資を帝都の民へ……?」

 アステリアが潤んだサファイアの瞳で、震える声で尋ねた。


「ええ、約束ですからね。インフラ技術者たるもの、一度繋いだパイプと運行ダイヤは絶対に守るのが流儀です」

「エドガー様……っ!」


 アステリアは感情を抑えきれずにエドガーの胸へと飛び込み、その温かい胸元に顔を埋めて涙を流した。

 隣でセレーナが「むっ、またしても抜け駆けですわ!」と頬を膨らませ、フロリアが「わたくしもエドガーの胸に飛び込みますの〜!」と抱きついてくるが、車内は春のような温かさに包まれていた。


 そして――。


 キィィィィィィン……ッ!


 耳に心地よい電磁回生ブレーキの減速音とともに、白銀の超特急は猛吹雪の帝都南門広場へと滑り込んだ。

 狂いひとつない、完全な定時到着だった。

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