第21話:リニア魔導レールの敷設計画とヒロインたちの充電争奪戦
新星魔導国家シルフィアが帝国からの完全独立を高らかに宣言してから、ひと月が経過していた。
かつて帝国の最果てと見捨てられ、荒れ果てた痩せ地が広がっていたシルフィアは、今や大陸全土から押し寄せる商人、熟練職人、そして未来を求める移住者たちで連日お祭り騒ぎのような活況を呈していた。
エドガーが構築した超高電圧防犯グリッドにより、領内の治安は大陸のどの王都よりも安全に保たれている。街中には清冽な地下水と無尽蔵のクリーン電力が張り巡らされ、夜になっても魔導街灯が昼のように石畳を照らし、道端には紙屑ひとつ落ちていない。
そんな奇跡の都市の中央にそびえ立つ領主邸――その最上階にある技師長執務室で、エドガーは巨大な樫の木のデスクの上に大陸全土の巨大な白地図を広げていた。
「……やはり、次の成長限界は『物流』だな」
エドガーはミスリル製のペン先で地図をコツコツと叩きながら、小さく息を吐いた。
ゴールドハイム商業連合との独占供給契約により、シルフィアの高品質な農作物や超伝導ミスリル製品は飛ぶように売れている。だが、大陸全土を繋ぐ交通網はいまだに泥まみれの街道と、馬車や駄獣による徒歩輸送が主流だった。
どれほどシルフィアの工場が精密な工作機械で製品を量産しようと、他の自由都市や同盟国へ荷物を運ぶのに何週間、何ヶ月もかかっていては、真の大陸規模の経済圏など夢のまた夢である。
「なら、敷くしかないな。――レールを」
エドガーは定規を当て、シルフィアから西方の大陸主要都市群へ向けて、迷いのない真っ直ぐな朱色のラインを引いた。
ただの鉄のレールではない。
バガンが精錬した【超伝導ミスリル鋼】を軌道に敷き詰め、エドガーの生体リアクターから供給される交流磁束によって車体を宙に浮かせる――時速五百キロメートルで大陸を駆け抜ける【超伝導リニア魔導鉄道】構想である。
車輪とレールの摩擦抵抗はゼロ。さらに先頭車両の前面にエドガー特製の流線型エアロダイナミクス・バリアを形成すれば、空気抵抗すら極小化できる。
かつて馬車で片道二ヶ月かかっていた大陸横断の旅が、わずか半日の日帰り圏内へと圧縮されるのだ。
ドカン! と執務室の分厚い扉が勢いよく開いた。
「親方ぁ! 頼まれてた超伝導軌道レールの初期サンプル、三千本ほど打ち終わったぜ!」
作業用エプロンに身を包み、腕まくりをしたバガンが豪快に入ってきた。
その後ろには、エドガーが設計した多関節型の自律型作業ゴーレムたちが、銀白色に輝く寸分の狂いもないレールを軽々と担いで整然と整列している。
「仕事が早いですね、バガンさん。さすがです」
「ガハハ! 親方の引いてくれた工作機械のカムとバイトの設計が神がかってっからよ! 俺が寝てても、旋盤とフライス盤が勝手に千分の一ミリの狂いもなくレールを削り出してくれんだ! ドワーフの若衆どもも『こんなに気持ちよく鉄が削れる工房は天国だ!』って涙流して働いてるぜ! で、これを大陸中に敷き詰めるんだろ? 俺の親類縁者、鉱山ドワーフの腕自慢を全員呼び寄せて、一気に突貫工事でレールを繋げてやるよ!」
「頼もしいです。まずはシルフィアから西方の近隣自由都市同盟までの先行区間、百五十キロを一週間で貫通させましょう」
「おうよ! 任せときな親方!」
バガンが嵐のように去っていった後、エドガーは壁の大時計を見上げた。
時計の長針と短針がちょうど午後八時を指している。
「よし、本日の業務は完全終了。定時退社だ」
どれほど世界を揺るがす大事業を抱えていようと、定時で仕事を切り上げ、温かい飯を食い、十分な睡眠をとる。それがブラック宮廷で酷使されてきたエドガーの鉄の掟だった。
エドガーが執務室を出て、居住区の私室へと戻ると――扉を開けた瞬間、甘やかな香りと異様な熱気が押し寄せてきた。
「……あの、皆さん。俺の部屋でいったい何をしているんですか?」
キングサイズの天蓋付きベッドを囲むように、三人の絶世の美少女がパチパチと無言の火花を散らしていた。
「マスター! 本日の定期メンテナンスおよび直結急速チャージの優先権は、筆頭メイドである私にあります」
アイリスが無表情のまま、だが陶器のような白い頬をうっすらと桜色に染め、メイド服のエプロンをきゅっと握りしめて主張する。
「ずるいですわ、アイリスさん! 世界樹の精霊女王たるわたくしの光合成(充電)こそが、エドガーの健康を保つ秘訣ですのよ〜! 今夜はわたくしのこの柔らかくて豊満な胸でエドガーを包み込んで、夜通し朝まで甘やかして差し上げる番ですわ!」
薄い透け感のある緑色のネグリジェをまとったフロリアが、たわわに実った果実のような胸をエドガーの右腕にむぎゅっと押し当て、吐息を吹きかけてくる。
「ふ、二人とも、はしたないですわ! 大公たる私が……その、エドガーさんの睡眠の質を最高に保つために、添い寝をして差し上げるのが統治者としての責務というものです……っ!」
セレーナもまた、レースをあしらった真紅のナイトガウン姿で顔を林檎のように真っ赤に染めながら、エドガーの左腕をぎゅっと抱きしめて離さない。
「マスター、私の体内バッテリー残量が低下し、冷却ファンが暴走寸前です。早急なプラグ接続を要求します」
「わたくしだって、エドガーの魔力が足りなくて身体の奥がぽわぽわ疼いて眠れませんの〜!」
「わ、私だって……エドガーさんと離れたくないんです……!」
三方向から押し寄せる極上の柔らかさと、芳しい乙女たちの甘い香り。
エドガーは天井を見上げ、幸福な深いため息をついた。
「……分かりました。今夜は全員で、川の字……いや、四人で並んで寝ましょう。魔力充電は均等に分配しますから」
「「「はい、マスター(エドガーさん)!!」」」
かつて帝国の冷たい石畳の地下室で、ボロボロの毛布にくるまりながら一人震えていた日々が、遠い過去の幻のように思えるほど――エドガーの夜は、最高に甘やかで温かな温もりに満たされていた。




