第20話:新星魔導都市、ここに建国を宣言す
冬が終わりを告げ、心地よい春風がシルフィアの大地に吹き抜ける季節となった。
この数ヶ月の間で、シルフィア領は劇的な変貌を遂げていた。
エドガーが張り巡らせた広域交流送電網は、領都だけでなく辺境の農村や山間部の集落にまで完全に張り巡らされていた。
各家庭には電熱調理器、魔導冷蔵庫、そして夜を昼のように明るく照らす長寿命の魔導灯が普及し、夜遅くまで子供たちの笑い声と酒場の賑やかな歌声が響くようになっていた。
そして今日――。
中央広場には、領内各地から集まった数万人もの領民と、大陸中から移住してきた職人や商人たちで埋め尽くされていた。
広場の中央、新設された大時計塔のバルコニーに、正装を纏ったセレーナと、その隣に立つエドガーの姿があった。
「我が愛するシルフィアの同胞たちよ!」
セレーナの声が、エドガーの設計した広域音声増幅器(魔導スピーカー)を通して、広場全体に澄み渡るように響いた。
「私たちは長い間、帝国の最果ての棄民として、飢えと寒さに耐え忍んできました。重税を課され、支援を断たれ、ただ死を待つだけの地であったこのシルフィアを、救ってくださった方がいます!」
セレーナは誇らしげにエドガーを振り返り、手を差し伸べた。
広場から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こる。
「エドガーさんの類まれなる英知と、皆様のたゆまぬ努力により、我が領地は自給自足の食料基盤、大陸一の製鉄技術、そして無尽蔵の魔力インフラを手に入れました! もはや私たちは、飢えに怯えることも、理不尽な帝国の圧政に屈する必要もありません!」
セレーナは胸元に佩いたミスリルの剣を抜き、青空高く掲げた。
「本日、ここに宣言いたします! 私たちは腐敗した帝国から完全に独立し、すべての民が豊かに、自由と英知を分かち合える新たな国――【新星魔導国家シルフィア】の建国をここに高らかに宣言いたします!!」
ウォォォォォォォォォォッ!!
地鳴りのような大歓声が天を衝いた。
領民たちが帽子を投げ、抱き合い、涙を流して新しい国の誕生を祝福する。
「セレーナ様、万歳! エドガー技師長、万歳!!」
「シルフィア自由国、万歳!!」
熱狂が渦巻く中、エドガーはバルコニーの手すりに手を置き、広場を見渡した。
その隣に、常春の世界樹の精霊女王フロリアがふわりと舞い降り、エドガーの肩に頬を寄せる。
「うふふ……エドガー。見て、世界樹の枝葉が、あなたの創った街を祝福して光の粉を降らせているわ」
フロリアの言葉通り、青空から黄金色の柔らかな魔力粒子が、雪のように優しく街中へと降り注いでいた。
「マスター、領内全変電所の負荷状況、極めて安定。独立建国に伴う周辺諸国からの亡命希望者、本日だけで三千名を突破しました」
アイリスが淡々と、だがどこか誇らしげな声音で告げる。
「親方ぁ! 新しい工場のドワーフどもがよ、建国祝いに樽酒を百樽空けちまったぞ! 今夜は無礼講だ!」
バガンが遠くの通りで樽を担ぎながら手を振っている。
「エドガーさん……本当に、ありがとうございます」
セレーナがエドガーの横に歩み寄り、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「あなたがここに来てくださらなければ、私はとっくに絶望に押し潰されていました。あなたが私に、この領地に、未来をくれたのです」
「お礼を言うのは俺の方ですよ、セレーナ様」
エドガーは穏やかな笑みを浮かべ、彼女の柔らかな手をそっと握り返した。
「帝国でゴミのように扱われていた俺の技術を、信じて受け入れてくれたのはあなたです。ここは、俺にとっても大切な故郷になりました」
エドガーは視線を遠く――西の地平線の彼方へと向けた。
「ですが、これで終わりではありません。新星シルフィアを真の大国へと発展させるためには、大陸中の諸都市を結ぶ【物流と交通の大動脈】を切り拓く必要があります」
「物流と交通の大動脈……?」
「ええ。次は、大陸全土を時速五百キロで駆け抜ける――【大陸横断超伝導リニア鉄道】を敷設します」
エドガーの瞳には、すでに次なる技術革新の光が灯っていた。
追放された魔力循環士が創り出す奇跡の物語は、いま新たな時代の幕を開けたのである。
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第3章:大陸横断鉄道と神話炉心の覚醒
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