第15話:感電スタン結界でお引き取り願いました
「な……な、な……っ!? き、貴様ぁぁぁっ! この私を……帝国特使たるこのレナード伯爵を、泥棒呼ばわりしたなぁっ!?」
レナード伯爵の顔が、怒りのあまり茹でダコのように真っ赤に沸騰した。
貴族としてのプライドを粉々に打ち砕かれた男は、腰の細剣を乱暴に引き抜き、背後に控えていた重装近衛兵たちに絶叫した。
「衛兵! 衛兵ッ!! この無礼極まりない平民の首を刎ねろ! 逆らう者は領主の小娘も含めて皆殺しだ! 技術書と金目の物だけを奪い取ればよい!!」
「はっ!」
重装近衛兵たちが抜剣し、殺気を剥き出しにしてエドガーへと踏み込もうとした――その刹那。
「マスター、脅威対象三十名をロックオン。迎撃プログラム、スタン・モード起動待機完了」
エドガーの背後で、アイリスのバイザーが青く発光した。
「ああ、アイリス。殺す必要はないよ。ただ、二度とこの領地の敷居を跨ぐ気が起きない程度に、しっかり『お灸』を据えてあげよう」
「了解。領主館敷設型・高周波パルス誘導フィールド、送電開始」
エドガーがパチン、と指を鳴らした。
その瞬間――。
ピシィッ! バチバチバチバチィッ!!
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
応接間の絨毯の下に張り巡らされていた超伝導ミスリル配線から、青白いプラズマ放電が一斉にスパークした。
鋼鉄の鎧を着込み、金属製の剣を握りしめていた重装近衛兵たちの全身を、数万ボルトの交番高圧パルス電流が駆け抜ける。
「あばばばばばばばばばばっ!!」
「び、びりびりするぅぅぅぅぅっ!?」
近衛兵たちは直立不動の姿勢のまま激しくガタガタと痙攣し、手から剣を取り落とした。
鎧の隙間からシューシューと白い煙が吹き上がり、全員の髪の毛が一瞬にして逆立ち、見事な真ん丸のアフロヘアーへと変貌していく。
「ひ、ひぃぃぃっ!? な、何が起きて――ぎゃあああああああああっ!!」
逃げ出そうとしたレナード伯爵の革靴の金具にも、容赦なく誘導電流がスパークした。
伯爵の自慢の巻き毛が一瞬でチリチリに焦げて爆発し、まるで巨大な黒いキノコのような頭へと早変わりする。
「あばばばばばっ! お、おたすけぇぇぇぇっ! し、舌が……舌が痺れて……あばばばばばっ!!」
白目を剥き、口から盛大に泡を吹きながら、レナード伯爵はその場にドスンと尻餅をついて昏倒した。
近衛兵三十名も、まるで倒れるドミノのように次々と絨毯の上へと崩れ落ち、全員がアフロヘアーのままピクピクと痙攣しながら気絶した。
「ふぅ。バガンさんが作ってくれたミスリル床下配線、接地抵抗が低くて素晴らしい導電性ですね。漏電ブレーカーも完璧に作動しました」
エドガーは何事もなかったかのように紅茶のカップを持ち上げ、優雅に一口啜った。
「まあ……! あんなに横暴だった帝国軍が、一瞬で全員アフロ頭になって気絶してしまいましたわ……!」
セレーナは両手をパチパチと叩きながら、おかしそうにクスクスと笑った。
ガチャリ、と応接間の扉が開き、巨大なスパナを肩に担いだバガンが顔を出した。
「おい親方! なんだか景気のいい火花が散った音がしたから来てみりゃ……ギャハハハハハッ!! なんだこの頭の爆発した豚野郎どもは! 帝国兵がまとめてコントの舞台にでも上がったのか!?」
老ドワーフが腹を抱えて大爆笑する。
「バガンさん、ちょうどいいところに。この気絶した豚さんたちを荷車に放り込んで、領境のゲートの外に不法投棄してきてもらえますか? あ、持ってきた金貨と馬車は、領地への不法侵入および脅迫に対する『迷惑料・賠償金』として没収しておきましょう」
「ガッテン承知だ親方! こんな連中、国境の泥水の中に放り投げてやるぜ!」
バガンは屈強なドワーフの怪力で、アフロ頭になった近衛兵たちを次々と俵のように担ぎ上げ、外の荷車へと放り込んでいった。
***
数時間後。
シルフィア領と帝国の境界線。
泥だらけの道端で目を覚ましたレナード伯爵は、頭を抱えて呻き声を上げた。
「う……うぅ……頭が割れるように痛い……。ここは……?」
「は、伯爵閣下! ご無事ですか!」
近衛兵が駆け寄ってくるが、その顔を見てレナードは悲鳴を上げた。
「ひっ!? だ、誰だ貴様は!? その巨大な黒い毛玉のような頭はなんだ!?」
「そ、それは閣下も同じでございます! 閣下の頭も、まるで焦げた羊のようになっております!」
「な、なんですとぉぉぉぉぉぉっ!?」
水たまりに映った自分のアフロ頭を見て、レナード伯爵は絶望の叫びを上げた。
馬車も、金貨も、帯剣すら奪われ、残されたのはボロボロの服と爆発した髪の毛だけ。
「お、の、れ……! エドガー……! セレーナ……! この屈辱、絶対に忘れんぞ……! 帝国の全軍を動員して、あの忌々しい領地を灰にしてやるからなぁぁぁぁっ!!」
アフロ頭の特使一行は、冷たい秋風が吹き抜ける中、徒歩で数日かかる帝都への道を、トボトボと惨めに歩き始めるのだった。




