永遠の少年 ~2~
ユウリが、ばたばたとリビングの中を行ったり来たりしている。ハルトは週明けの試験に向けて、部屋にこもって勉強中だ。そんなハルトのために、ユウリは心地良い空間をつくるのに一生懸命のようだった。
それが何分か続いた、その時、カメラの方にユウリがぽてぽてと近付いて来た。
「……ええと。あの、これな、ハルトが無視せぇって言うてたんやけど、気になるん。俺、見えとる? パパさん」
そんな風に言って、レンズを覗きこんで、ひらひらと手を振る。
「なぁ、なぁ、聞こえとったら、携帯ならしてやぁ」
思わず、トオルが「ふっ」と笑ってしまう。
「なんやねん。なんもかわらんやん。ほんまに見えとんの? これ」
不満げに言ってポカリとカメラを叩いたり、無邪気にあれやこれやする姿は、初めてビデオに映ろうとする子供そのもので、あんまり可愛くて、トオルの頬はゆるみっぱなしになってしまう。ずっと見ていたい気分でいたのに、気が変わりやすいユウリはすぐに飽きてしまって、とてとてと離れて行ってしまう。
「やっぱりバレてたんですねぇ」
トオルと同じように、笑みを隠しきれない表情でハルトの父が言う。
「やっぱり?」
「ええ。たまーにですけどね、画面の中のハルトと視線が合う時があって、もしかしてって、思ってたんですよ」
無人の部屋がしばらく映ったあと、画面の下のほうからニュウッと、ハルトとユウリが顔をそろえて映りこむ。
「俺が勉強しとる間に、ユウリが親父に挨拶したんやってな」
ハルトが言うと、隣でユウリがコクンと頷く。
「親父、残念やったな。全部バレとるで。見とる? 親父?」
笑いながら、少しも怒ってなさそうな表情でハルトが続ける。
「俺、来週のユウリのメンテナンスな、試験と重なっててん。やから、親父んとこ、いけそうもないねん。やからまぁ、此処で済ませるわ」
ハルトがそう言って、ユウリに「あれとってきて」と頼むとユウリが画面から消える。それを見送って、ハルトが画面に向けて小声で言う。
「ほんま、カメラ設置しとくなんて趣味悪いで、親父。ユウリには「おまえが大切やからや」言うといてんから、話し合わせとってや」
やがて戻ってきたユウリが「ハイ」と、何かを手渡している。
「んじゃ、親父。いつもなんもしたれへんけど」
パーン! と、クラッカーの弾ける音が響いて、ハルトがギターを弾きはじめる。そして、ユウリがしゃんしゃんしゃんと鈴を鳴らしながら、
「はっぴばーすでとぅゆー、はっぴばーすでぃとぅゆー、はっぴばーすでぃでぃあ、パパさーん」
それはそれは愛らしく、歌いだした。
「はっぴばーすでぃとぅゆー」
ハルトの掻き鳴らすギターに合わせて、ユウリがくるくると回る。
「誕生日おめでとう!」
二人の声が重なって、
「親父、プレゼントはなんもないんやけど、ユウリがなんや、言いたいことがあるんやて。訊いたって」
ハルトがユウリの背中をポンと押す。
「ほら、ユウリ。なんか言いたいことあんねんやろ?」
「あ、……あんなぁ、」
ちょっと迷うような表情を見せた後、ユウリが綺麗な碧の瞳をまっすぐに画面に向けて、ハルトの父を見つめる。
「ええと、俺を創ってくれてありがとう。……で、もういっこ。俺を、ハルトに預けてくれてほんまにありがとう。あんな、パパさんは、たまーに俺のこと見て、哀しそうな顔するけど、俺、めっちゃ幸せやで」
一息に言って満足げに笑う。そして、
「やから、パパさん、俺のことで悩んだりせんといて。大丈夫やから。な?」
まるで母親のように、優しく言った。




