変わらない心と誓い ~2~
「きっれーやなぁ」
静かな海岸線で、ユウリは裸足になって波に素足を浸している。
ミルク色の肌が海の青に染まって、硝子のように美しい。亜麻色の髪が陽射しを吸ってきらきらと、金色に散らばっていく。風になびく髪を右手で抑えて、ふっと眦を細めたその表情が大人びて見えて、ハルトはドキッとしてしまう。
些細なことで零れるようにおちてくる「好き」という感情に、戸惑う。
人混みが嫌いなハルトが選んだ海岸は、まだ早い時間のおかげもあって人影もまばらで、ふたりはしばらく動かずに、なだらかに続く海の果てを見つめていた。
ユウリは、はしゃぎたい気分もあったのだけれど、ハルトが懐かしむように海を見つめていたので、そのまなざしの行方を追いかけてみた。けれど追いつけなくて、知らず傍に立つハルトの指先に手を伸ばす。
「ん?」
「……なんも、あらへんよ」
ハルトがなにを見ているのかわからなくて寂しくなったのだと、口に出せなかった。
「……ああ、ごめん。俺ちょっと、ぼーっとしとったな」
ハルトは自分のことをそんな風に笑って、ユウリの伸ばした手に、やんわりと指先を絡めてくる。
時折そんな風にハルトは、ユウリの知らない世界を眺めている。
「……ハルトは海、懐かしい?」
思ったことをそのまま口に出せば、ハルトが小さくうなずいて歩き始める。
「俺もな、変やと思うけど懐かしいで、これ」
「変なことあるかいな。生きとるもんは、皆、そう思うんやないか?」
ピタリと、ユウリの足が止まる。振り返るハルトの瞳を、じっと見つめる。
「……おまえが、生きとるからやで、それは」
だからハルトは、噛んで含めるように言葉を発して、やわらかく笑って見せる。
そんなハルトの瞳を真摯なまでに見つめ、見つめ続けて、ユウリがぽつんと呟く。
「……俺、ロボットやよ……」
ユウリの瞳が、朝露に濡れる若葉のように潤む。
「ロボットでも「生きてる」って、言うてええんか?」
泣くのを我慢する子供のように、口をへの字に曲げて、ユウリが問う。
ハルトが大好きな、碧の瞳。その瞳が、まるで硝子玉みたいに生気を失った瞬間を、ハルトは一生忘れないだろうと思う。
「おまえが、動かなくなった時……、俺は、おまえが、死んでしまう思うたんよ」
絡めた指先を強く握って、ハルトが続ける。
「そう考えたら、ぞっとした」
繋いだ手を引き寄せて、ハルトがユウリを抱きしめる。
「ユウリが、生きていて、良かった」
そして、ため息のように、繰り返す。
「ほんとうに、よかった」
ハルトが言う「生きていて良かった」と言う言葉に、ユウリは軽い眩暈を覚える。
「ユウリ、俺と「離れたぁない」って、今も思ってくれてるんか?」
「思っとるよ。俺、ハルトに捨てられたら、嫌や」
ユウリがそう思ってくれるのは、初期設定にすぎない。そう、わかっているけれど、今はどうしたって離れることなんか出来そうになかった。何より、ハルトが。
ただの演技だと、そう分かっているのに心が張り裂けそうに痛んだ雨の日。ハルトは、ひとつの決意を固めていた。そして、もしもその決意が通らないようだったら、ユウリを連れて何処か遠くへ逃げ出すつもりでいた。
そこまで覚悟した電話で、ハルトの父は軽やかにハルトの不安を吹き消してくれた。




