心が濡れる、雨の中 ~1~
夏の終わり、焼けたアスファルトを冷ますように、窓の外には優しい雨が降り注いでいた。
夕食時に始まった古い洋画は、何度もリバイバルされている有名なもので、だいたいのストーリーを知っているハルトは最後まで見たがるユウリをそのままに、キッチンの後片付けをしていた。カウンター越しに見るユウリは、クッションを抱え込んでぼんやりと画面を見つめている。
最近は、映画やドラマをちょこちょこ観るようになって、ユウリの知識はどんどん増えていっていた。以前よりも色んな本も読んでいるようだし、多分「キス」の本当の意味も、薄々は感ずいているんじゃないかと邪推してしまう今日この頃。
それでも、もう挨拶という意味を果たしていないのかもしれないキスをするハルトに、ユウリは「キス、好き」なんて色っぽく言ってくれるから、そこはそのままにしておこうと姑息に考えているハルトだった。
「ハルト? なぁ、俺、あれやりたい」
洗い物も終わって、最後の仕上げにシンクを拭いていたハルトが「なに?」と問いかけながらリビングに足を向ける。テレビはコマーシャルに切り替わってしまっていて、ユウリが何を見てそんなことを言い出したのかわからない。
「なぁなぁ、俺、あれがやってみたい」
「ごめん。やからなに?」
なので、隣に座って賑々しいコマーシャルを見ながら、もう一度問いかける。
すると頃合いよく、スポンサーの切り替わりを表示する字幕の向こうに直前の場面が流れたようで、ユウリが「あれ! あれ!」と言って画面を指さす。
洋画のワンシーンは、金髪碧眼の美男美女が別れを惜しむようなセリフを言っている。そして軽いキスの後、立ち去っていく男性を女性が手を振って見送るというもので、
「……えっと? ユウリくん、なにがやりたいん?」
特にユウリがやりたそうな事柄を見つけられなくて、ハルトが同じ問いを繰り返す。
「だーかーら」
わかってもらえないことに焦れたような声をあげると、ユウリは抱え込んでいたクッションをポンっと放って上目遣いにハルトを見つめる。
「ばいばーい。って。俺ら一緒の家やからああいうの、一回もあらへんやん」
「……まぁ、当然やわな」
「俺、あれやりたい。ばいばいって、ハルトに手ぇ振るの」
「……なんでそんなん、やりたがるわけ?」
「なんとなく。なんか、「ばいばい」って、してみたい」
「……まぁ別に、ユウリがやってみたいんなら、ええですけども……」
どうしてそんなことをやりたがるのか、とんと見当がつかなくて、ハルトが首を傾げながら立ち上がる。




