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トオルの受難、ふたたび ~11~

 ハルトの表情に(さと)く気づいても、素直になれないユウリがクリンと背を向ける。


「おまえが機械やからとか、そういうことでもないんよ。人はみんな、違うんよ。同じ時もあるけどな、違う時のがほとんどや」

「……そんなん、知らんもん」

「やからユウリ、よう聞けや」

「……」


 背中を向けているのに、ユウリがハルトの声に神経を尖らせているのがわかる。

 その姿に、気のないふりをしながら耳だけはしっかりと此方(こっち)に向けてくるタマの様子が重なって、ハルトは優しい気持ちになる。


「人はなぁ、親子でも、兄弟でも、友達でも、みんな同じにはなれんのよ。みんなそれぞれ気持ちがあって、好みがあるんよ。やから、違うもんばっかやから、たまに同じやと嬉しくなるんよ。そう、思わんか?」

「……やったら、訊くけど、」

「なん?」

「……俺、今、こっち、ひとりで寂しいって思うてんの、ハルトと違うんか?」

「ん?」

「ハルトんとこ行きたいなぁ思うてんの、俺だけ?」


 ぽつぽつと、背中越しに少し甘えた声音。振り向かないユウリの表情が見たくなって、ハルトが呼びかける。


「ユウリ?」

「……一緒ならええな、思うけど。違ったら迷惑やん? なぁ!」

「ユウリ、こっち向いてみ」

「俺は、同じがいっぱいあった方がええよ。怖くないやん。その方が」

「同じやよ、ユウリ。だから、こっちおいで」


 不貞腐(ふてくさ)れたような声音で喋るユウリが、のそのそと振り返る。

 今しも泣きそうなのを堪えているユウリがあまりにも(いとけな)くて、またもや伸ばしてしまう手を、パシンと降り落とされる。


「なんでトオルは、ハルトの部屋、入れるん!」

「えっ?」

「俺には、絶対入っちゃあかん、言うてるんに、なんでトオルは入れるん!」


 ユウリの可愛らしいヤキモチが、ハルトをくすぐったい気持にさせる。

 ユウリの不機嫌の理由がわかって、ハルトは今度こそ本気でユウリを抱き寄せる。ペシペシと痛くもかゆくもない掌を掴んで抱きしめると、ユウリがやっと大人しくなる。


「寂しかったんか?」

 スンと鼻をすするような仕草を見せて、ユウリは黙ったまま俯いている。


「あんな、部屋に入りたい時は、コンコンってしてみ?」

「コンコン?」

「そう、トオルみたいに」

 抱きしめられた腕の中から、淡い碧の瞳がハルトを見上げてくる。


「そうしたら、俺も、中、入れてもらえるん?」

「必ずやないけど、大丈夫な時もある」

「なんで、トオルは……」

「あんな、トオルは一緒に住んどらんやろ? 帰ってもうたら、もう話し出来んやん。やから、しゃあないねん」

「しゃあないん?」

「そっ、しゃあないねん」

「それって、邪魔でもってこと?」

「そう、迷惑でも」

 そこでやっとユウリが、ふにゃっと少しだけ笑った。


 いつもで、どこでも、ユウリが一番特別なんだと、いったいどうすれば伝わるのか。

 ただ一緒にいるだけでは伝わりきれない心の機微は、「恋人」としてのつながりでしか解決できないんだろうか?


 互い違いに寄せてくる、好きという気持ちと不安という気持ち。一緒に居ることが嬉しいのに、寂しいような気持ちにもなってしまう。ゆらゆらと揺れる心の行きつく先は、何処に有るんだろう。決して揺るがない何かが欲しいのに、それが何かすらわからない。


 傍に居るだけで満たされて幸せになれるのに、それだけでは満足しきれない何かを探して、ふたりの心は揺れていた。

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