トオルの受難、ふたたび ~9~
どうしてそんな考え方をするようになってしまったのか、トオルには見当もつかなかった。
ユウリは疑わなかったはずなのに。すべてを。
なのに、なんで今更こんなことを言い出すのか。
原因はハルトにしかない。
そう思うとなんだかちょっと腹が立ってきて、トオルは帰り際、中から鍵をかけて閉じこもってしまったハルトの部屋をノックしていた。
「俺、トオル。ちょっと開けてや」
夕食の準備を始めたらしいユウリが壁際から覗きこんでいるのが視界の隅に見えたけれど、今は気づかないふりをしてドアをガンガンと叩き続けた。
カチャリと鍵の開く音がして、トオルがグイッとドアを開ける。
「なんやねん」
面倒くさそうに眉をひそめるハルトは、ちょっと怖い。
それでも、さっきのユウリの一言をそのままにして帰ることは出来なくて、グイーっと部屋に押し入ってドアを閉めた。
トオルが事の次第を説明するとハルトは特に驚いたふうもなく、さらりと応えた。
「あぁ、それ、テレビの影響や」
「テレビ?」
「うん」
ユウリが生活に慣れ始めてから、ドキュメンタリーとかニュースとか、ドラマや映画ではない番組は、時々一緒に見るようにしているんだとハルトが言う。
「なんかの特番でな、リサイクルされるロボット業界、みたいなんやってたんよ」
「そんなん、ユウリに見せたらあかんやん!」
「ん。俺もそう思ったんやけど、ユウリな、リモコンガッシリ握りしめて、離さへんのよ」
ハルトに「捨てられる」なんて、考えたこともなかったユウリは、その罪作りな番組で「捨てられる」こともあるんだと知ってしまったらしいと言う。
「捨てるなんて、考えるわけないのに、ユウリは家族って言葉を、ようわかっとらんみたいやし、これは時間かけなあかんなぁ、思うとるんよ」
トオルでさえ胸が痛んだユウリの言葉に、ハルトが傷つかないわけがないと思う。
「親父に聞いたらな、成長過程や言うんよ。ほら、トオルも経験あると思うんやけど、「死ぬ」ってことが、めっちゃ怖い時期ってあったやん。それと同じなんやて。そのうち、そんな不安は無くなるから、見守っときって。無責任なもんや」
ふふっと力なく笑うハルトに、トオルは朝の必死だったハルトの表情を思い出す。
「ハルト、せやから、キスの続きなんて、俺に聞いたんか?」
「いや、そればかりやないよ」
「そうなんか?」
「うん。それもあるけど、そればかりやないんよ」
寂しそうに呟くハルトの気持ちを推し量ることは難しい。けれどトオルの胸の中に、ぽつんとやるせないふたつの、魅かれあう引力のような言葉が転がった。
こんなに、愛されているのに、と。こんなに、愛しているのに、と。
それでも、そんなわかりきったことを口に出せるはずもなく、トオルは少なからず不安な気持ちを抱えたまま、マンションを後にした。




